Chapter02-05

記録者: 神辺野 令人 (ENo. 121)
Version: 1 | 確定日時: 2025-12-17 04:00:00

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「ねえ──じゃあさ」

ぱちん。
少年が指を鳴らす。
軽快なくせに、不思議と胸の奥をざらつかせる音がした。

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「“正しい”があるなら……“悪い”って、なんだと思う?

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「君の思う“悪さ”ってさ。どういう形をしてる?
 ……悪い人って、どうして悪い事をすると思う?」

その声は明るいのに、奥底に沈むものは冷たく澄んでいる。
冗談みたいな口ぶりなのに──その実、返答を逃す隙を与えないほど見つめていた。

──あなたは、何をもって“悪い”と判断しますか?


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「僕が新しい曲を吹こうとするとね、
 止めようとする人がいるんだ。すっごく真面目な顔してさ」

笛に指を当て、吹く真似をして。
けれども笛を通して音を出す事はしないで、
また手持ち無沙汰のように笛を手でいじる。

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「親も、偉そうな大人も、見回りの憲兵も、
 神様の言うことばっかり唱える聖職者もね。

 彼らはそれを“正しいこと”だって僕に言うんだよ。
 でもさ、僕の新しい音を止めるんだよ? それってさ──」

そうして。歌う様な声で嗤った。

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〝悪い〟ってことじゃない?

      ──だって僕の方が正しいのだから!

……少年はあなたを見ている。
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「はは!“正しい”の反対が“悪い”であるならば、あなたにとってその者たちは、確かに、大層、“悪い”ことでしょうね」

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「先ほど述べたとおり、“正しさ”とは一意ではありません。そして、“悪さ”もまた、そうなのです。
 一単語として表層的な意味のみ取ったのならともかく、それらが概念として内包する『意味』は一意でないもの同士ですから、特にこの問答において扱われる“正しい”と“悪い”とは、明確に対義的なものであるとはいえないでしょう」

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「まったく逆のものではないのですから、両者はある物事を説明する際に、修飾語として同居することができます。あなたは正しく、悪い。あなたの周囲の人々も、また正しく、そして悪い

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「ですから、私にとって“悪い”とは──“正しい”と同様、まったく役に立たない概念でありながら、どこにでも転がっている厄介なヤツ──といったところでしょうか」