Chapter01-05

記録者: リコフォス (ENo. 152)
Version: 1 | 確定日時: 2025-12-14 04:00:00

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  ──カシャ


シャッターの音の後、あなたを向いていたレンズがふと向きを変える。
何か未知のことを認識した様子で、その後にまたあなたにひとみが向いた。

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「観察対象、最終質問を提示します」


この対話の終端が近いようだ。
不思議な白い部屋での対話は、何の説明もなく始まり、そして終わるらしい。

奇妙な観察者は感慨もなく告げ、一拍。

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──あなたは、何をもって“自らの存在に価値がある”と判断しますか?


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「それは役割でも、使命でも、功績でも構いません。
 また、価値は不要であるとする見解も有益な観測結果となります。

 あなた自身が、どの基準で己を“肯定”し、
 何をもって“無価値”とせずにいられるのか。

 その価値に他者を如何にして組み込んでいるのか、
 その内的構造を、開示してください」


──あなたは自らに〝どのような価値〟があると認識していますか?

 
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「当機は、あなたの答えを推論する事はできても──
 代弁する事はできません
 故に此度は、 あなた自身の言葉で語られることを要求します」
Answer
01-05 自らの価値、肯定素材と他者
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「最後」
「ということは……答え終わったら元の場所に返されるのかしら」
「それとも観察体としてここで保管されるのかしら」
「衣食住は保証してほしいわね……」

「……できれば帰してほしいけれど」

「……ごめんなさい、答える前にその後のことを考えるなんて無意味よね」

「だけど簡単って言ったからかしら、今度は難しいくてつい」

自分の答えで質問が変わるとは思っていない。
小さく鼻をならして肩をすくめてみせる。

「いえ、とても簡単、でもあるのだけれど……」
「今の私がそれを答えると、怒られそうで」
「……怒ってくれる、のかしら……」
「それにさえ自信が持てないの」

変な話でしょう?
ふふ、と微笑む顔に今までのような覇気はない。
困ったような、弱ったような、そんな顔。

「私が私の価値を決めるとき
 他者の介在……なんてものじゃないわ」
「私の価値は、他者から見出みいだされないと"わからない"」

「信念と、実行できるだけの力と、
 途中で考えられる障害の可能性の模索と対策、
 依頼の達成のための作戦を立てる思考」
「全部、"私のため"のものじゃないから」

「それでも、そうね」
「無事に依頼を完遂したら
 イレギュラーに対処できたら
 立てた作戦が有効だったとき」

「"私でよかった"、そう、思うわ」

脚の上で重ねられた両手。
落ち着かなさげに下の手を揉んだり、力を入れたり。
気弱な様子のまま、言葉を探しさがし、ゆっくりと。
レンズに視線を向けずに、少女は答えた。

「……ごめんなさい」
「どうして"こう"なのかは、答えられないわ」
「この記録がどう使われるか、誰が見るかわからないから」
「本来想定している人達以外の目に触れる可能性もある以上」


「だから、"あなたたち"とのお話は、ここまでね」

「少しでも、これまでにお話したことが役に立てばいいのだけれど」
「……いえ、最後がこんな様子じゃ信じてもらえないかもしれないわね」

ふう、と小さく息を吐いて、目を閉じる。

――数秒

瞼を開いた少女は、この数十秒がなにかの間違いだったかのように
自信に満ちた表情で、にこりと口角をあげる。

「戦闘系冒険者に必要なのは状況俯瞰と客観視」
「そんな私を呼んだのは異世界を知るにはうってつけだったでしょう?」

「まあ、最初に言った通り、私は戦闘系だけじゃない

 なんでもできるし請ける、
 オールラウンドどころかオールマイティ
 依頼者に最善の結果を届ける上に話し上手でなによりかわいい

 
 そんな最高の請負冒険者姉妹の妹、リコちゃんことリコフォスよ
 この記録をどのくらい活かせるか、楽しみにしてるわ!

挑発するような言葉と共に、冒険者と名乗る少女は大きな笑顔を咲かせてみせるのだった。