Chapter01-03

記録者: リコフォス (ENo. 152)
Version: 1 | 確定日時: 2025-12-14 04:00:00

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  ──カシャ


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「記録しました。有難う御座います」

言葉と共にシャッターが下りる。
たとい先のあなたの言葉がどのようなモノであったとしても、
コレは変わらずこの言葉を吐いたのだろう。
どれだけ荒唐無稽な事を言おうと、無関係な事を言おうと、
静かで落ち着いた声は、波打つ事が無い。

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「観察対象、次の情報を取得します」

冷たいガラスのひとみが、あなたに次のトイカケを差し出した。

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「──次は簡単な思考実験を行います。
 あなたの目の前に一人の人物がいるとしましょう

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彼は明らかに困難な状況にあり、助けを求めています。
 しかし、助けるとあなた自身に損害が生じます


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──あなたはどう行動しますか?
 理由や、其れに至る思考回路を開示してください」


──あなたはこの仮定にどう回答をしますか?

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「当機には質問と観測以外の権限を持ち得ません。
 従って、この人物を助けることは不可能です」


何とも思考実験のし甲斐の無い回答ではある。
流石に此れでは回答例として参考にならないと思考したか、
継ぎ足す様に次の言葉が繰り出される。

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「この問いを考えるにあたって、あなたは複数の要素を考慮する事になるでしょう
 自らの能力、損得勘定、社会倫理、共感性、恐怖心、
 過去の経験、未来への予測、その他不確定要素……
 どの要素に重きを置き、判断するかを考えると良いでしょう」


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「思考の順序、葛藤、迷い──それらも重要な要素です。
 『まず相手の安全、次に自己の損害への憂慮・保身行為、最後に社会的評価』等の様に、
 優先順位及び時間軸での解釈の変遷は実に多様性に富むものでしょう」

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「また、其の人物が『何者であるか』も重要です。
 幼子であるのか、年長者であるのか、あるいは敵対する者か、見知らぬ存在か、親しい者か──
 立場や関係性によって、きっとあなたの判断基準は変化します。

 それらの場合でもまた、此の状況を考えてみてください」



Answer
トイカケ01-03 思考実験
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「今度は簡単ね」

先の"普通"よりは答えやすい、という意味だ。
言葉だけでなく自信に満ちた瞳で微笑む。

「とはいっても私の行動指針に基づいて、だから
 私の損以外も関わってくるわ」
「だからいくつか答えることになるけど……」

まず、と。
少女は人差し指を一本立てた

「召喚前……生まれの世界、依頼中なら」
「依頼主次第ね」
冒険者わたしたちに助けを求めている側でもあるから
 大体は助けることになるかしら」
「その際の私の損害は……依頼の遂行に問題がなければ後で"なんとか"する」
「助けたら達成できない可能性があるときは、
 ……あら、結構難しいわね、これ」

人差し指を曲げて口元にあて、ううん、と迷う。

「依頼を無事に終えることが最優先、
 でも印象を下げることはあまりしたくないのよね」
「イレギュラーに対応できてこその"有能な冒険者"だし
 依頼主が『見捨ててしまった』と気に病むような結果にはしたくない」

「……まあ、体験から言うと"何とかしてきた"から
 仕事ができてかわいい冒険者、なんて名乗れているのだけど」

「損害を最小限に抑えながら助ける、が正確かしら?」

依頼を成功させるにあたって、小さくないリスクを払うこともある。
必要な犠牲を渋って失敗する。それは一番ありえない
……ただし、この少女は他者にその犠牲を強いることはない。
自分か姉にだけ。そして本人が納得していれば口を出さない。

滅私、利他というには少々過度な自己犠牲傾向。
そのことに観察者observerの向こうの観察者Watcherは気づくだろうか?

「これが仮定1」
2、生まれの世界、フリーの時

「これも損害がリカバーできる範囲なら助けるかしら」
「『次からは冒険者ギルドを通して』、っていうのは絶対ね」
「なんでも助けていたらギルドの意味がないもの」
「……まあ、依頼を出す時間がなかったってこともあるでしょうし」
「それを『業務外』と見捨てるのは酷でしょう?」
「逆に助けた人が
  『それならギルドに依頼を出せばいい』
  『彼らは信頼できる』
 と広めてくれたら、信頼と仕事に繋がるでしょう?」

「情けは人のためならず」
「っていうのは、こういうこと・・・・・・

2本目の指を立てた手は、ピースサインにも見える。
そんな指先を軽く曲げ伸ばししながら、
冒険者というより商人のような損得勘定をにこにこと説明した。

「えーっと、次は召喚された世界王国での話ね

「そちらでは私を喚んだ『ひめさま』のそばにいつもいたわ」
「だからひめさまの指示次第ね」
「でもそれがひめさまの損になるとしても、何も言わないわ」
「害になるなら、その時には取り押さえる」
「……それだけ」

親指を立てて、迷いなく答える。

「そちらには魔法がない分、完元には戻せない負傷を私が負うとしても」
「それがひめさまの意向なら、受け入れるわ」

「でもあの方はお優しいから、そう命じることはないでしょうね」
「きっと悩むでしょう。その間に最小限の損で済むように動くわ」
「それで助けられなかったら、そこまで」
「ひめさまはその人の命を背負って、同じ状況が発生しない方法を考えるでしょう」

「もし助けられるなら、助けられたなら」
「その民はひめさまへの信を抱くでしょう」
「たとえ害するために近づいた……差し向けられた刺客なら」
「それでも助けようとするお姿に刃を向けられないようになるかもしれない」

「選択が冒険者ギルドへどう寄与するかに似ているかもしれないけど……」
「それに加えて、お心ある為政者だと知らしめる必要があるわね」

「じゃあひめさまと行動を別にしているときは?」
「それが4つ目……だと思うでしょう?」
「4つ目はないわ。ひめさま預かりの私の振る舞いはひめさまへの心象に関わるから」

「だからその質問への回答は、ここまでね」

親指、人差し指、中指を立てた左手を見せながら、無機質な記録音を待つ。

1つ目、2つ目を答える少女は
強気な解答の中でどこか他人事のような目をしていたが、
3つ目の答えははじめは強く、徐々に柔らかい光を浮かべていた。


Ex-Q.取り押さえられなかったら?
A.「そんな仮定は不要よ」

「必ずお守りするわ」
この身を挺してでも
「でもそれだと一回きりになってしまうかもしれないから……」
「守り続けられるように、立ち回る」
「どこなら致命傷にならないか、わかっているからそこで受ける、けど」
「治療中はお守りできないから、まず受けない」
「だから取り押さえる。必ずね
……ね?不要な質問でしょう?
にやり、少しだけ意地の悪そうで、人相手なら"それ以外は"と続けさせない何か
……底知れぬ圧を伴って、少女は笑うだろう。
observerがそう訊ねることは、ないけれど。