Chapter03-05

記録者: 楓 優希 (ENo. 188)
Version: 1 | 確定日時: 2025-12-14 04:00:00

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あなたの言葉に黙って頷きながら、
思考を深めるように髪を弄る手の動きは止まっていた。

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「……価値、なんて偉そうな言葉を使ったけどさ」

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「結局、自分がその生き方で満足できるかどうか
 みたいな話、な気もしてくるね」

短く言葉を切りながら、息を吐く。
沈黙は、ただ心の中を整理する時間のようだった。

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どうすれば、満足って思えるんだろうね

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「もちろん、簡単に“ああ、これで満足!”って思えれば楽なんだけど……
 現実はさ、どんどん次が出てくるし、思い描く理想と現実の間に隙間があって……」

小さく肩をすくめ、思い出したかのようにまた手が髪を弄った。

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もうこれでいいって思える瞬間……、
 クロは、経験ある?……どうすれば自分が満足できるかって、分かる?」


──あなたにとって“満足”とは何だと思いますか?

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「……“満足”って多分、別にゴールじゃないんだよね」

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「結局“ああ、今ここで自分のやりたいことできてるな”って瞬間のこと……なのかも。
 誰かに褒められたり、認められたりすることだけじゃなくて、
 ただ自分の心が納得してるっていうか」

髪を指先で絡めた手をそっと下ろし、視線を落とす。

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「だから、ウチにとっての満足って、“ずっと続くもの”じゃなくて、
 小さくて短いけど、自分の心にちょっと灯がともる瞬間のこと……かな、と思う。
 其れを積み重ねられる可能性が高い行為を、価値、と呼べるのかもなぁ……」

軽く息をつき、椅子にもたれて肩の力を抜く。
ふ、と視線があなたに戻り、問いかけるように目が揺れる。

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「クロはさ……そんな瞬間、ある?
 自分の中で、これでいいって思える瞬間って、どうやったら掴めると思う?」

Answer
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優希(クロ)
「満足か…。………………ないよ。何せ、研究の世界は毎日が更新だ。一度で満足してちゃ、研究員なんか名乗れないさ。」

追求に追求を重ねて、どれだけ先までその答えがあるのか、それを探求し続けるのが研究者。
満足なんてしてはいけない、と、言われ続けた私は、満足なんて言葉を知らない。

壊れた機械のように、自分が朽ち果てて止まるまで、追求できるものは追求し続ける。
そんなつもりだった。

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優希(クロ)
「私たちはね、満足しちゃいけないんだ。これでいいやなんて妥協しちゃいけないんだ。研究員だからね。………だから、私の辞書に満足なんて言葉はないよ。」

思考の中にあった言葉を、そのまま口から出す。
そう、これでいいなんて、言っちゃいけないのだ。突き詰めるところまで突き詰めなければ、それは研究員ではなくただの暇人だろう。

…あなたは厳しいと思うかもしれない。だが、お忘れじゃなかろうか。
研究所にはその突き詰めが楽しいと、生き甲斐だと思う変態しか、入ることを許されないのだ。

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優希(クロ)
「さっきから思ってたんだけど。私たち、本当に真逆の経験…というか、真逆の感性をしてるよね。…キミはいい研究材料になりそう。」

満足は、ゴールでは無いと、あなたは言った。けれど、研究の世界では、その満足が、ゴールになり得てしまう。だから全て排除しないといけない。

教授が、博士が満足してしまったら、その先の解明されていない謎は、そのままになってしまう。
いやまあ…いずれ誰かが引き継いで究明していくものなのだろうが…それではやはりつまらないし、いつまでかかるかすらわからない。

この研究が解明したら次は何が待っているのか、それを繰り返し続けて、最後までやり続けるのが私たち研究者なのだから、満足はこの世界には無いのだ。だって、研究対象は無限にあるから。

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優希(クロ)
「ただ…本当に、君たちの生きる世界と私たちの生きる世界は、全く違うからね。…頼むから真に受けないでくれよ?」

ただ…言うなれば、研究しているものが解明されれば、とても喜ばしいし、それに関しては満足してもいいのだろう。けれども…やはり満足してしまうと、怠惰が生まれてしまう。やはり…私たちは満足感を感じるべきでは無いな。

止まらない思考を整理しつつ、落ち着いた心で、私はあなたの返事を待っていた。