Chapter03-04

記録者: 楓 優希 (ENo. 188)
Version: 1 | 確定日時: 2025-12-14 04:00:00

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女はじっとあなたの言葉を聞いて、それで、
ふ、と何かを思ったようにあなたに視線を向ける。

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「……あのさ。
 誰かのために生きるって、なんか難しいと思わない?」

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「ああごめん、急にさ。でも……ウチ思うんだよね。
 期待されて、期待に応えようと頑張るじゃん?
 勿論そりゃ、応えるのって義務じゃないけど……出来れば応えたい、じゃん?」

自分の指先でもてあそぶ髪の毛が、ゆるく揺れる。
その指先は、癖のように、逃げ道のように、同じ束を何度も撫でていた。

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「誰かのために頑張るのって、嫌いじゃないんだよ。
 でもさ、その“誰かに似合う自分”を続けなきゃいけないのが、ちょっと怖い」

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「ウチ、そんな器用じゃないし。
 似合う自分のサイズ、毎回ぴったりじゃないんだよね。

女はくすっと笑う。
その笑いは軽いのに、どこか無理に持ち上げた声色だった。

そして、あなたを少し覗き込む。

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「クロは、自分の価値ってどこに置いてる?
 ……他人をどれだけ、自分の価値に使ってる?


──あなたは、自分の価値に他人の評価をどれだけ使っていますか?

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「“誰かのために”動こうとするとさ、
 結局ウチ、自分がしんどくなっちゃうんだよ。
 都合よく使われてる感じ、というか……」

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「でも逆に、全部“自分のため”だけにすると、
 それはそれで空っぽになるんだよね。
 なんかこう……味のしないガムを噛んでる感じ」

だから、と言いかけた口を噤む。
ちょうどいい言葉を探す様に視線が白い天井を揺れて、
ああ、と小さな声を零して、ようやくあなたに視線が戻った。

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「……誰かのために頑張るのって、
 “その人に向けた”自分の“好き”って感情なのかもな」

それで、少し照れくさそうに笑う。

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「ウチは、その“好き”が続けられるかが自分にとって大事……だと思う。
 相手が好きって事……じゃなくて、好きって感情を持てる自分のほう。
 “好きを与えられる自分”、が一番価値がある、と思う……のかな」

うまくまとまらないや、なんて苦笑気味に言った後、
息を細く吐き、椅子にもたれ直す。

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「……ま、そんなに上手くいかないんだけどね、現実は」

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優希(クロ)
「そう?あーいや、まあ…………一連の話を聞いてもう分かってはいると思うが………私は、逆に他人なしでは生きられない。………さぞ贅沢な人間だよ。自分の行き先ですら自分で決められない。」

他人を、人を愛しすぎて、求めすぎて。
それを全て失って、私はそのまま壊れてしまった。
元々壊れかけていたんだ。それを、手を繋いで防いでくれてた人たちがいたんだ。

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優希(クロ)
「自分の価値なんて…最初から無いようなものだと思っている。だって…」

けれど…その人たちすら失ってしまった今、壊れそうな心を支えてくれる人なんて、誰1人いなかった。

だから、音を立てて、派手に壊れてしまった。

今の私は、座って思考を垂れ流すだけの機械人形のようなものに成り下がったのだ。

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優希(クロ)
「私を認めてくれる人がいなかったら、私は何をすればいいかすらもわからないんだ。」

歪み切ってしまったんだ。長いようで短い、子供の間に、全て。

自分のやりたいことがわからない。
どうやって過ごせばいいかわからない。

他人が、怖い。

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優希(クロ)
「私は、褒められることは嬉しかったけれど…その裏で、実際愛する人たちの役に立ち続けることしか考えて生きてこなかったからね。他人のために動き続けるのも、またわたしの中の普通さ。だから………そうだね、キミにとっては、わたしの意見はあまり参考にならないよね。」

さっきから言っているが、彼女と私は、どうやら本当に真逆の感性をしているらしい。
彼女の意見がわかるようでわからないから、非常に興味深いもので。

けれど、これを知ってしまったら、私は…

いや、今は考えないでおこう。興味深いものを追求するのが研究者なのだから。
あーあ…メモするものでもあれば良かったんだけれど…あいにく夢にはそんなもの持ってこられないから。

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優希(クロ)
「キミはいいね、そうやって自分への価値をちゃんとつけられるんだから。………私は、自分のことが大嫌いなんだ。だから………」

人の役に立ち続けることだけが、私が、私に価値を与えつづけることが出来る。
そうでなかったら、私は生きている意味すら見出せない。
だって、誰の役にも立っていない私なんて、居てもただの邪魔なガキじゃないか。

巡る考えに、どんどん苦しくなって。早く次の質問が来ないかと、私は目の前の彼女を見つめ続けていた。