Chapter03-03

記録者: 楓 優希 (ENo. 188)
Version: 1 | 確定日時: 2025-12-14 04:00:00

クリックで開閉
icon
「……そっか」

一言だけをぽつりと落とし、その後の言葉を探すように目が泳ぐ。
何かを言えば軽くなってしまうし、黙れば重くなる。
その中間を彷徨うような視線の動きだった。

icon
「いや、なんかあんま気の利いた事言えないや。
 テキトーな相槌を簡単に言うのは失礼っていうかさ……」

女は椅子にもたれかかり、髪を指で弄りながらぼやくように言葉を零す。
……指先で“間”を誤魔化しているようだった。

icon
「……じゃあ、さ、クロ。
 クロって誰かに期待されたりすることって、ある?」

icon
……誰かに期待されてるって思うの、疲れない?


──あなたは、“期待”に対してどのような感情を抱きますか?


sample

icon
「ウチさ、親とか先生とか、あと周りの人とか……
 期待されるとさ、なんかこう……自分のペースで動けなくなる気がして」

icon
「でもさ、期待されるのって悪いことじゃないのも分かるんだよね。
 褒められたり、認められるのって、ちょっと嬉しいし……」

言葉はゆっくりと紡がれていくなか、指先だけが落ち着きなく動く。
笑っているような、笑っていないような声だった。

icon
「けど、期待ってさ、“応えられなかった時の怖さ”までセット販売なんだよね。
 おまけに“努力不足に見られちゃうリスク”付き」

icon
「嬉しいのに疲れる。
 ありがたいのになんか苦い。
 クロはそういうの、ない?」

Answer
icon
優希(クロ)
「………いや、いいんだ。むしろ…気の利いたことを言われる方が辛いから。」

そう。そうやって、腫れ物扱いをされてきている私にとっては、むしろ気の利く言葉の方が傷つくのだ。

そうして、お互い、少しの間の後。

icon
優希(クロ)
「………悪いんだけど、私はキミには適材な人間じゃないらしい。………そんなやつの意見でいいなら………聞かせよう。」

私は、本当にあなたとは真逆の人生を歩んできているらしい。まあ、そんな逆向きの意見でいいのであれば、いくらでも聴かせてあげられる。

ひとまず、深呼吸して。そうして、あなたの動向を眺めるようにしながら話し始める。

icon
優希(クロ)
「私はね、毎日期待されながら生きてきた。……それはわたしにとって当たり前だったんだ。だから、なんとも思わなかったさ。毎回、期待通りに動けばいいだけ。好きなようにしてもほめられる。………イージーモードだったよ。だって、何しても期待以上だって褒められるんだもの。」

博士の娘だから、頭のいい子なんだ。

毎日、そんな言葉と期待を聞かされて育ってきた私は、どうやら本当に普通の脳みそをしていなかったらしい。

なんでも理解ができて、どんなことでもスッとわかる。
いろんな勉強をしても、一瞬で全て解き切ってしまって。

期待に応えて…いや、正直、みんなの期待以上の結果を出し続けたきたと思う。
だから、私の毎日は輝かしかった。楽しかった。やればやるほど、みんながたくさん褒めてくれて。何をしても、みんなから返ってくる言葉は、"想像以上の出来だよ!""すごいわ!"ばかりで。
何より嬉しかったのは、お父さんや、お母さんからの褒め言葉だった。
本当に、かけてもらえることが嬉しくて仕方がなくて、毎日、いろんなことをし続けた。

途中、母を亡くした。よそ見運転の車に撥ねられて。
即死だったらしい。

けれども、私はそこではめげなかった。私にはまだ、お父さんがいたから、立ち上がった。
そうして、毎日、ずっとやり続けた。勉強、研究、追求…一つのものに執着しないで、本当にたくさんのことをした。

けれども今度は、父と、他の大切な仲間たちをも、研究中の事故で亡くしてしまった。

…今はどうだろう。立ち上がるための手を取ってくれる人は、もういない。
私は、そうして今は過去に執着して、2度と立ち上がれなくなってしまった。

icon
優希(クロ)
「…まあ……長くは続かなかったがね。見ての通り。………この歳で全部失ったよ。」

言葉は軽く。けれども、重々しい雰囲気を纏っていた。