
優希(クロ)
「…変わること…ね…。……キミは、ずいぶんと酷い質問をするんだね。」
ため息が一息出る。心についた傷は、まだじくじくと新鮮な痛みを、傷の主に提供し続けている。

優希(クロ)
「何が酷いかって?……変われなくなってしまったんだ、私は。」
過去に執着して、正しい生き方も分からずに、踏み出すことを拒んでいる。
………私は………変わりたいとも思えなくなってしまった。

優希(クロ)
「悪いんだけど、その質問で答えられることはないよ。………私には、答える資格すらないと思うんだ。」
目をそらすようにわざと顔を伏せる。それはまるで、心のなかに落ちる影を眺めているような気分で。
………あまり良い気分ではなかったためすぐに顔を上げた。

優希(クロ)
「……私はね、変わることを拒んだ人間なんだ。もう、もう…。…………だから…話せることはなにもない、…けれど…
そうだね、…その前の話ならできる…かもしれない。………そうだね…聴かせようか。」
ふと、何かのイタズラか、少し心変わりがあった。
多少でも参考になるなら…話して損はないだろうと、誰かが話しかけてくるように。
そう考えて、私は昔のことを少しずつ思い出しながら、口を動かした。

優希(クロ)
「…私も、君が言うように、変わるのが怖かった側の人間なんだ。」
この幸せが長く続く保証なんて、誰もしてくれないし、変わった後が幸せだという保証をしてくれる人もどこにもいない。
そんなんじゃ、変わることが怖いと思うのは、ごく当たり前の現象とも言えるだろう。
けれど…おそらく、他にも理由がある。

優希(クロ)
「キミは気がついていないかもしれないが…実は、変わることというのは、大きなエネルギーが必要なんだ。小さい頃は、何をしてもエネルギーが有り余っていなかったかい?」
小さい頃は、どれだけ走り回っても、寝て起きればスカッと回復して、また同じように走り回って、遊び続けていたという人はやはり多いのではなかろうか。

優希(クロ)
「でも…大人になっていくにつれて…落ち着きが出てきて、動き回らなくなるから、体力は落ちるな。そうなると今はどうだ?小さな変化ですら、体が重く感じられて…とてもじゃないが、たくさん変わることは、とてつもない心労、疲労が伴ってくるからできない。だから踏み出すのですら億劫…という状態だと、私は考える。」
実に…変わることを拒んで、変わってしまうことを恐れて…そのまま逝ってしまったのがその私の家族なのだ。
彼は、博士は…今までのものが壊れて、変わってしまうことが怖いと、よく愚痴っていた。
だから、あのトラブルに見舞われた時、最後まで諦めずに最善を尽くして…
私を置き去りにして、逝ってしまったのだ。
ある意味、彼に取っては最善だったのかもしれない。けれども、残された私にとっては、最悪の結果でしかなかった。
身寄りも居なくなり、引き取り先もいない。おまけに、事故を起こしたという疑いをかけられている。
けれど…絶対に嫌いには、ならないよ。お父さん。