Chapter03-01

記録者: 楓 優希 (ENo. 188)
Version: 1 | 確定日時: 2025-12-14 04:00:00

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あなたがふと気が付けば、真っ白な部屋に居た。
そこには椅子がひとつ置いてあるだけで、他に何もない。

またあの部屋に来たようだ。
小さな部屋には相変わらず椅子は一つきり。
壁を向いた椅子の先には、やはり何も見えない。

──あなたが椅子に座れば、
視界の向こうに椅子があり、そこに誰かが座っている。
三角に身体を縮めて座っていた
長い髪を気だるげに結んだ白い服の女が、
あなたに気付いた様子で緩慢に顔を上げた。

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「……えー……なんか居るんだけど。どゆこと?」

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「あー……まあ……ども。
 名前とか……あー…じゃあ、シロでいいや、この部屋白いし。
 君は……じゃあクロ。なんかぼんやりしてるし」

知らないもの同士、名前を名乗るモンでもないでしょうと。
シロを名乗った女は畳んだ身体をほどいて、
んん、と小さな声を漏らしながら伸ばす。

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「……こーいうのって、なんかあったよね。
 白い部屋に閉じ込められて……なんか……出られない部屋的な?
 初対面でこんなんされてもおもんねー……」

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「なんかこの白さ落ち着かねー……、
 内側をざわざわ触られてるみたいなー……。
 なんでこんなとこにウチら集められたんだろ。おもろい話なんてできねーっつの……」

嘆息ひとつ零した後、
白い部屋の隅の方に目を遣って、女はぼやく。

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「まー……夢ん中……なんかな。何話してもいいっちゃいいのか。
 クロだってウチの無意識が作った偶像みてーなもんかもだし……
 返事返って来るかもわかんねーし、適当こくか」

女は髪を束ねているリボンをいじる。
それは落ち着かない子どものようであり、退屈を紛らわせる大人の仕草にも見えた。

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「クロはさ、生きる理由とかって何だと思う?


──あなたには生きる理由はありますか?

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「別に生まれた時点で生きる理由とか要らね―とは思うけど、
 あった方がちょっと嬉しいというか、豊かな気がするんだよね。
 親が望んだから生まれた、以外の意味があった方が……なんかいいじゃん?」

言いながら、女はリボンをきゅっと締め直す。
その指先だけは、妙に確かだった。

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「生きる理由ってより人生の目的……って言う方が正しいのかも。
 小さい時からなんか、皆と一緒に~とか、大人の言う事を聞け~とかで
 結局どう生きたいかって全然分かんないなーってさ?

 ガチガチに矯正したくせに、急に「自分のやりたい事をやれ」って放り出されて、
 なんかそのまま今になっちゃった、みたいなさ……」

あなたをじっと覗き込む。
その視線は、答えを求めているようで、ただ誰かと共有したいだけのようでもあった。

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「クロはそういうのあんの?
 ウチも生きる理由っての──拾えるもんなら拾いたいんだよね。……皆目的に向かって歩いてるのに、
 ウチ一人だけ足を止めてる気がして、怖いからさ」

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ふと、同じような眩しさが瞼をノックして。恐る恐る私は目を開けた。
…どうやらまた同じような夢を見ているらしい。

とりあえず、記憶を頼りにまた椅子に座って。正面を向いた先にいるのは…
なんだこのギャルっぽい人は。……私はこう言うタイプの人間が大の苦手なのだが。
…まあいい。今はとやかく言ってる場合でもない。

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優希(クロ)
「………………」

しばらく、絶句していた。…初対面でそれを聞くか。よりにもよって私なんかに。
どうやら、"あちらが"ハズレを引き当ててしまったらしい。

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優希(クロ)
「生きる理由、ね…多分キミが思うような答えじゃないし…この間なくなったもので良いなら答えるよ。」

そこから深呼吸しても落ち着かない心のざわめきを抑えつつ、私は勢いよく話し始めた。
それは、まるで見えてくる感情に蓋をしているかのように、

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優希(クロ)
「私の生きる意味。…親…えっとね、私、家族が研究家なんだ。全員研究員でさ。そんで…教授や、博士とずっと、研究し続けることだった。教授は…家族じゃないんだけど、もはや家族みたいに仲良くなっててさ。
そんな大切な人たちと毎日を生きることが、私の生きる意味だった。」

…前にも、誰かにこれを話したような気がする。
なんだっけ。…存在意義とか、なんか難しい話だった気がする。

妙に機械的な声が耳の奥に浮かぶ。

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優希(クロ)
「この間。…本当についこの間だよ。全部壊れて、無くなっちゃったんだ。」

少し、声が小さくなる。
傷がジクジクと痛んでいるのを感じるのを、わざわざ感じないように、無理くり話を続けて。

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優希(クロ)
「2人とも、家族よりも研究の方が大切だったんだよね。………うん、ショックだったよそりゃ、だって研究の方が、私たちと過ごす時間より大切だったってことは…なんか、捨てられたような気持ちにもなったし。…あー、そうだね、あんま私の話は参考にならないだろうから……キミは、私みたいなのにならないように…悔いのないように、やりたいな〜って思ったことをやっていくような日々を生きることを目的とすれば…目標がないよりはいい結末になるんじゃないかな。」

そのまま、勢いよく喋りを終えて、私は一息ついた。
その…後半、実はかなり適当をこいた。悪いんだけれど、私は普通の生き方を知らないんだ。
やりたいことをやっていくのがみんなの普通の生き方かもしれないのに。

でも…多分言わないよりはマシだと思った。だから、とりあえず私は浮かんだことを一つずつ言っていったのだ。

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優希(クロ)
「…えーと、こんな感じでいい、かな…」

彼女みたいな人たちは、何を考えているかわからないから、やはり苦手だ。
なんてことを考えながら、とりあえず私は彼女の返事を待った。