王は無言で少年を見つめる。
己の導いたその答えは、
お前を彩る音のひとつになれたのか?

「……止まる訳がない。止まれるものか。
私の革命は、私にしか成せない」
されど、己を蝕むこの力についての自覚もある。
革命の全てを成す前に音が途絶えるのであれば、
せめて次へと繋げるようにと動くつもりだ。
革命の灯火は、決して消さない。
そのようなことを思考しているうちに、
目の前にいたはずの少年は消えていた。

「……………」
瞑目。
◇

「…………か」
声がする。

「…………へいか」
目を開けた。

「陛下〜???」

「…………アルカか。おはよう」
シャルティオは、己のもうひとりの側近に目を遣る。
場所はいつもの執務室だ。

「アタシたちの王サマってばよ、
最近、かなりお疲れじゃねーの?
ちゃんと休まなきゃ
強制的に寝かせんぜ〜?」
この側近は、薬師だ。
その気になれば、眠り薬の調合なんて。
しかし、シャルティオの体質は。

「……私に薬の類いが効かないことは、
お前もよく理解していると思うが」

「知ってる。
でもあまりにもひでー時にゃ、
殴ってでもオネンネしてもらうからな」

「…………心しておくよ」
でも、うたたねぐらいならば
許して欲しいな、と思うシャルティオだった。

「……妙な夢を見た」
「ところでアルカ、あのさ」
王には、この側近に問いたいことがある。

「お前は──
正義って、何だと思う?」
出されたトイカケ、導いた答え。
同じ問いを投げた時、
この側近はどう返すのか気になったのだ。

「………………」
「……妙なこと訊くじゃねーかよ」
問われて、アルカが難しい顔をした。
そうだな、と口を開く。

「…………法に従うことこそが正義、
“正しいこと”なんじゃねーの?
アタシたちは魔導王国の民なんだしさ」

「法を破れば悪だ。分かりやすいだろ」
「その法が腐っているから、
王サマは変えようとして下さっている。
ありがてーことだよなー」
言ってから、薬師は目を伏せる。

「…………まぁアタシはその生き方からして、
どう言い訳しても悪になるけどな」
「アタシのしたことが“世間的に見て”
どう映るかは理解してるぜ」

「そんな“悪人”でもこうやって
側に置いて下さる王サマに感謝って、な!」
「ハッハァ!」
満足したかい、と薬師が笑う。
あぁ、と王は頷いた。

「……お前にとっての“正義”は法だ。
だがお前は己が悪の自覚がある」

「……お前からして、
“正義”はあまり重要ではない?」
そうだな、と薬師が肩を竦める。

「一般的な枠から外れた存在が、
それでも正しく在ろうだなんて
おこがましいだろうがよ」

「アタシたち“イデュールの民”は逸れモンだ、
差別されるような存在だ」
「だから、“まとも”では居られない」
それでも、と赤い瞳が、
確かな想いを込めて王の青玉石を見つめた。

「アンタの法になら従っても良いぜ」
「アタシは革命に期待してる」

「アンタという王サマは、
こんな逸れモンのイデュールでも、
忌避せずに重用してくれたんだから、よ!」

「………………」
その紅を見つめ返した。
イデュールの民の特徴である、真紅の目。

「…………お前の期待に添えられるよう、
頑張るよ」

「頼むぜ?
逸れモンたちの星、
アタシたちの“革命王”!」

「────あぁ」
トイカケを経て、側近に新たにトイカケを投げて。
心の中、無限に繰り返す自問自答。
自分に関しては自信がない。
でもアルカのように、強く期待を掛けてくれる人がいるならば。

(止まれない、止まれない。
止まる訳には、途絶えさせる訳には)

「でもとりあえず今は休め」
見透かすように言われて、
はい…………と従う王なのだった。