彼の視線は壁へ、床へ、そしてあなたへ。
どこかで落ち着きどころを探しているようだったが、
それは“怖がり”というより“状況を整理しないと落ち着かない”という
彼の性分そのものに見えた。
魔女の弟子はあなたの答えを丁寧に聞き取った後、
目元にわずかな影を落として考え込んだ。

「有難う御座います。
……参考にさせていただきます、うちの師匠が
この部屋と似たような事をやらかしかねないので……」
……どうもこの魔女の弟子は苦労人らしい。
破天荒な魔女に振り回されているタイプの弟子なのかもしれない。

「……もしよければ、もう少しだけ質問をしてもいいですか?
またいくつか問い掛けないといけないようなので……」
何かを確かめたような視線の動きの後、そう口にした。
どこかに〝猶予〟が記されでもしているのだろう。

「僕……こういう“空間の乱れ”みたいな現象には何度か遭遇してきたんです。
主に師匠の……ああ、いえ、魔女の実験の副作用なんですが。
でも……今回のは、それとは“質”が違う気がするんです。
形は似ていても、根本が違う……というか」

「……異なる理と接触する橋の上に居るような、
世界のあいだにいるような、そんな……」
そこまで言って、息を呑む。
それは不安や恐怖を呑み込むような仕草にも似ていて、
けれどもそれを貪欲に知りたがる様な研究者的な好奇も滲んでいた。

「あなたは今までこうやって──
異世界と接触するような状況に遭った事はありますか?
……無かったら、この部屋で他人と出逢うことに……どんな気持ちを抱いてますか」
──あなたは異世界に関わりを持ったことがありますか?
──また、この部屋での邂逅をどう思っていますか?
Sample

「……似たような経験はしてると言ってますけど、
実のところ異世界と交信みたいなことは経験が無くて……。
まさかこうして異世界と関わりを持つなんて!」
魔女の弟子は指先をそっと胸元へ寄せる。
息を整えるように、深くひとつ吸って──それから微かに笑った。

「こうやって断片的にだけでも話せて、楽しい反面……怖いです。
“未知”って……危険とは限りませんけど、油断も出来ないですから」

「僕は……きっと異世界に関わるような事があったら、
怖いと思いながらも……関わりたくなっちゃうとは思います。今みたいに。
『魔女の弟子』だという外聞が無くなって『ただのアルヴェン』である場所でも、
きっと僕は、『魔女の弟子』であることを喧伝しながら、異世界に関わるんでしょう」

「……思った以上に僕、
『魔女の弟子』である事に誇りを持ってるみたいです」
あんまり参考になる意見じゃないかもな、と恥ずかし気に頬を掻いて、
あなたはどうですかと改めて魔女の弟子はあなたにトイカケを差し出した。