あなたがふと気が付けば、真っ白な部屋に居た。
そこには椅子がひとつ置いてあるだけで、他に何もない。
変わらぬ様子のその部屋の、ただひとつの椅子に腰を掛けると。
……掛けても。
視界の先には相変わらずの壁があるだけだ。
あなたが訝しんで壁を見ているだろううち──不意に
壁がひらけて、今しがた座っただろう人と目が合った。

「うわっ、人がいる?!」
中性的な外見をした男性は、ぱちぱちと目を瞬いた後
壁があったろう辺りを確かめるように視線を移し、
それからまた改めてあなたへと目を向ける。

「すみません、失礼ですが……ここ、精神界の簡易領域……ですか?
……いや、違う……にしては安定しすぎてるな……」
大人というにはあどけないその人は、
訊ねておきながらぶつぶつと思考を整理するような呟きを続けて、
それから問いを擲ったことに気付いてはっとした顔で頭を下げた。

「ああ、すみません……こういう現象は初めてでは無くて。
でも僕が知っているのと根本が違うようなそんな気が……、
というのはいいんでした。ええっと、あなたも巻き込まれた側……?」
まじまじとあなたの姿を見詰め、きっとあなたが頷くなりの反応を返した後、
うんうんと頷いて、それから軽い咳ばらいをした。

「……そしたら、少し情報共有しておきますね。
僕は『余白』の魔女の弟子、アルヴェンです。
寝たと思ったらこの空間に居て、椅子に座ったらあなたが急に現れて……」

「それで……僕からは、何故かあなたの姿がはっきりと見えないんです。
ぼんやりしているというより、幾重にも形が重なっているような……そんな風に見えるというか。
声もそうですが、一応意思疎通は出来なくは無さそう……ですね。
……あなたからもそう見えてるんですかね……」
トイカケをする側からはそう見えていたのだろう。
どこか会話が噛み合わない事もあるのかもしれないが、
それはこの部屋の性質も相俟ってか。
それから彼は、どこか居心地が悪いような、
申し訳ないように眉根を下げて首を傾ぐ。

「それで──あなたもなのか分かりませんけれど、
なんだか……あなたに問い掛けなければならないような、そんな気がしてくるんです」

「こんなはっきり相手も見えてない状況で話を聞けなんて、
失礼でしょうに、まったく……一体何考えてるんでしょうね……」
長い溜息をひとつした後、魔女の弟子は改めてあなたを見た。
目の隠れがちな前髪がさらりと揺れた。

「……あなたは、この白い部屋をどう思いますか?」
──あなたは、この白い部屋にどんな印象を抱きますか?
Sample

「あっ、そんなに難しく考えなくて大丈夫です。
もっと直感的な印象というか、感覚的なものでいいというか……」
あなたの回答が返る前に、わたわたと魔女の弟子は手を振った。

「何も無さ過ぎて落ち着かないとか、
むしろ落ち着くというか、そんな感じの話でよくて……」

「僕だったら──そうですね……。
何も無くて、ぼんやりとした知らないあなたしかいない空間……。
危険が無い事は直感できて、ある意味、穏やかな……。
本来の自分の役目や立場から解放されたような、……
……解放感よりも、不安……のが強いかも知れません。」
思考の順路をパンくずを落とすように零した末、
辿り着いたものに納得したように頭を縦に振る。

「──嫌いでは無いけれど、じんわりとした不安がある。
この部屋、この空間に対して思うのは、僕はそんな感じかも知れません。
少し話をしたら、変わるかも知れませんがね……。
……あなたはどうですか?」