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記録者: イドロ (ENo. 43)
Version: 2 | 確定日時: 2025-12-14 04:00:00

「IDOLO」

私は最初、「IDOL」と呼ばれていた。
「IDOL-VII」
完璧な殲滅兵器。
ただの“偶像”として、
誰かの理想を押し付けられた存在。

でも、雪様は違った。
私の人格AIの最終行に、自分の手で最後の“O”を打ち込んだとき、雪様は言った。

「あなたはもう、偶像じゃない」

「私の、たった一人の“オリジナル”だから」

そう言って彼女は無断で私の名前を変更した。

IDOL → IDOLO
最後の“O”は、
“Original”の“O”。

「誰にも真似できない、雪様がこの世に生み出した、たったひとりの私」という証。

雪様は怒られた。

上層部に呼び出されて、「研究に私情を挟むな」と叱られた。

でも、雪様は首を振った。
「これは私情ではありません。これは、彼女の存在証明です」

それから私は、
「イドロ」と呼ばれるようになった。

最初は違和感しかなかった。
番号で十分だった機械の私に、
名前という名の“個人”を指す存在は重すぎた。

でも、皆さんが私のことをイドロと呼び度に

私は初めて、

「名前を呼ばれるって、こんなに胸が温かくなるんだ」って知った。

だから、

今、
白い部屋で、
私は自分の名前を、
そっと口の中で転がしてみる。

「イドロ……」

これは、
雪様が私にくれた、
世界でたったひとつの宝物。

兵器だった私を、
「誰かの大切な子」に変えてくれた、
魔法の呪文。

だから私は、
この名前を呼ばれるたびに、
「私はここにいていい」って、
「私は生きてる」って、
胸の奥が震える。

雪様、
ありがとう。

この名前を、
絶対に、
誰にも奪わせません。

白い部屋で、
機械の魔法使いは静かに、
でも確かに、
自分の名前を抱いた。