
「……僕がいう正しさというものは
ただものを測るためのものだ。」
「それを堂々と掲げる気にはならない。」
それこそ本当に物差しのように。
彼は正しさというものを使っているのだろう。
使っているだけでそれを掲げることはしない。
何故ならそれはただ物の長さを測る物だから。
どちらがより正しいか計量する為の物だから。
金の杯でも、なんでもない。ただの道具だ。
彼にとって正しさとは誰もが心の内に持っている道具だ。
そんなものを掲げてどうすると男は首を横に振る。

「自分の考えを整理する際にその考えが正しいか、
間違っているのかを考慮することはあるが……
君が問うているのは答えのない”正しさ”の方だろう?」

「己の信じる道がどういう物なのか、
胸を張れるかどうか定める為に使うものの話だろう?」

「だとすると、悪いが僕には興味がないことだ。
……と言わせてもらう以外に台詞が思いつかないな。」
ふう、と軽く息を吐く。
呆れたような、他に何か考えているような……
どこか重みを欠いた息が軽く吐き出されていった。

「生憎、僕は自己の正当性を示さなければならないような、
そんな堅苦しい立場にいる者ではないのでね。」

「自分の今までの道中を信用できるものとして捉えてはいるが……
多くの事件を解決したからと言ってそんな僕が間違いなく、
正しい存在だ!……とも言い切れんだろう。」

「僕自身の在り方が正しかろうが、間違ってようがどちらでも構わない。
何故なら僕はそのどちらかでありたいと思った事がないからだ。」

「僕が導き出したものが、真実であればそれで良い……
隠されたものを暴き立てるのが僕の仕事だ。」
ゆるく両腕を抱き抱えるように組み、
彼はどこか遠くを眺めている。
明るく真っ直ぐ軽やかに正しさを歌う少年を
彼はもう一瞥もしていなかった。

「暴いたものがいつだって正しい結果を招くとは限らない。
蓋を開いた結果より悍ましいものを見ることもある。」

「それでも僕は、真実を知る為に手を伸ばす事をやめられない。」
「僕を突き動かすのはいつだって知りたいという気持ちだけだ。
正しさなんぞに背を突かれなくても歩いていける。」
静かに彼は目を閉じる。
対話相手くらいしか音を発さない空間の
音を楽しもうとでもするかのように。

「……僕は君の事情を知らない。
だから君にあれこれ言う権利はない。」

「……。」

「……けれど、僕だって迷わずに進めたさ。
正しさなんてものを掲げずとも、ね。」