Chapter04-01

記録者: ミラ・ステラウィッシュ (ENo. 144)
Version: 1 | 確定日時: 2025-12-10 04:00:00

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あなたがふと気が付けば、真っ白な部屋に居た。
そこには椅子がひとつ置いてあるだけで、他に何もない。

変わらぬ様子のその部屋の、ただひとつの椅子に腰を掛けると。
……掛けても。
視界の先には相変わらずの壁があるだけだ。
あなたが訝しんで壁を見ているだろううち──不意に

壁がひらけて、今しがた座っただろう人と目が合った。

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「うわっ、人がいる?!」

中性的な外見をした男性は、ぱちぱちと目を瞬いた後
壁があったろう辺りを確かめるように視線を移し、
それからまた改めてあなたへと目を向ける。

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「すみません、失礼ですが……ここ、精神界の簡易領域……ですか?
 ……いや、違う……にしては安定しすぎてるな……

大人というにはあどけないその人は、
訊ねておきながらぶつぶつと思考を整理するような呟きを続けて、
それから問いを擲ったことに気付いてはっとした顔で頭を下げた。

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「ああ、すみません……こういう現象は初めてでは無くて。
 でも僕が知っているのと根本が違うようなそんな気が……、
 というのはいいんでした。ええっと、あなたも巻き込まれた側……?」

まじまじとあなたの姿を見詰め、きっとあなたが頷くなりの反応を返した後、
うんうんと頷いて、それから軽い咳ばらいをした。

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「……そしたら、少し情報共有しておきますね。
 僕は『余白』の魔女の弟子、アルヴェンです。
 寝たと思ったらこの空間に居て、椅子に座ったらあなたが急に現れて……」

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「それで……僕からは、何故かあなたの姿がはっきりと見えないんです。
 ぼんやりしているというより、幾重にも形が重なっているような……そんな風に見えるというか。
 声もそうですが、一応意思疎通は出来なくは無さそう……ですね。
 ……あなたからもそう見えてるんですかね……」

トイカケをする側からはそう見えていたのだろう。
どこか会話が噛み合わない事もあるのかもしれないが、
それはこの部屋の性質も相俟ってか。

それから彼は、どこか居心地が悪いような、
申し訳ないように眉根を下げて首を傾ぐ。

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「それで──あなたもなのか分かりませんけれど、
 なんだか……あなたに問い掛けなければならないような、そんな気がしてくるんです」

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「こんなはっきり相手も見えてない状況で話を聞けなんて、
 失礼でしょうに、まったく……一体何考えてるんでしょうね……

長い溜息をひとつした後、魔女の弟子は改めてあなたを見た。
目の隠れがちな前髪がさらりと揺れた。

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「……あなたは、この白い部屋をどう思いますか?


──あなたは、この白い部屋にどんな印象を抱きますか?

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「あっ、そんなに難しく考えなくて大丈夫です。
 もっと直感的な印象というか、感覚的なものでいいというか……」

あなたの回答が返る前に、わたわたと魔女の弟子は手を振った。

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「何も無さ過ぎて落ち着かないとか、
 むしろ落ち着くというか、そんな感じの話でよくて……」

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「僕だったら──そうですね……。
 何も無くて、ぼんやりとした知らないあなたしかいない空間……。
 危険が無い事は直感できて、ある意味、穏やかな……。

 本来の自分の役目や立場から解放されたような、……
 ……解放感よりも、不安……のが強いかも知れません。」

思考の順路をパンくずを落とすように零した末、
辿り着いたものに納得したように頭を縦に振る。

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「──嫌いでは無いけれど、じんわりとした不安がある。
 この部屋、この空間に対して思うのは、僕はそんな感じかも知れません。
 少し話をしたら、変わるかも知れませんがね……。

 ……あなたはどうですか?」

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幾度目かの白い部屋、慣れた調子でイスに腰掛けると、今回向かいは空席だった。
ぱちりと瞬きをして、そのままゆるりと待っていると、腰を下ろした青年が現れ、驚いた声を上げるのを聞いてくすりと笑う。

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「こんにちは。ここが簡易領域? というものかは私は知らないわ」

一人で目を白黒させているアルヴェンと名乗った青年が咳払いをして落ち着きを取り戻すまで、ニコニコと見守っているだろう。
名乗りを聞いて、ようやく口を開く。

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「私はミラというの。ルアルと言う街で水煙草カフェをしているわ。よろしくね」

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「あなたの方に私の姿や声ははっきり映っていないのね。私からはあなたのきれいな黒髪もさくらんぼのような瞳もよく見えているのに、残念だわ」

そう言って夕日色の瞳を好奇心に光らせて、アルヴェンの姿をまじまじと見つめるだろう。
彼が続けた問いかけに頷いて答える。

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「他にすることもないもの、遠慮なく話して貰って大丈夫よ」

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「この部屋について……? そうね、白い部屋だと思うわ。少し殺風景だから、私が変えられるなら落ち着いた色のカーペットでも敷きたいわね」

そう言って想像を巡らせるように中の視線を浮かべる。

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「ただ話すだけの空間にしても、こう何も無いと会話も弾まないかも知れないでしょう? テーブルに季節の花を飾ったり、温かい飲み物で唇を湿らせたり出来た方が、もっと話しやすいと思うわ」

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「いえ、やっぱりお店を持つものとしては、居心地のいい空間を作りたくなってしまうから。本当に必要最低限、整えているのでしょうね」