Chapter01-03

記録者: エマ (ENo. 98)
Version: 1 | 確定日時: 2025-12-10 04:00:00

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  ──カシャ


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「記録しました。有難う御座います」

言葉と共にシャッターが下りる。
たとい先のあなたの言葉がどのようなモノであったとしても、
コレは変わらずこの言葉を吐いたのだろう。
どれだけ荒唐無稽な事を言おうと、無関係な事を言おうと、
静かで落ち着いた声は、波打つ事が無い。

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「観察対象、次の情報を取得します」

冷たいガラスのひとみが、あなたに次のトイカケを差し出した。

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「──次は簡単な思考実験を行います。
 あなたの目の前に一人の人物がいるとしましょう

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彼は明らかに困難な状況にあり、助けを求めています。
 しかし、助けるとあなた自身に損害が生じます


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──あなたはどう行動しますか?
 理由や、其れに至る思考回路を開示してください」


──あなたはこの仮定にどう回答をしますか?

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「当機には質問と観測以外の権限を持ち得ません。
 従って、この人物を助けることは不可能です」


何とも思考実験のし甲斐の無い回答ではある。
流石に此れでは回答例として参考にならないと思考したか、
継ぎ足す様に次の言葉が繰り出される。

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「この問いを考えるにあたって、あなたは複数の要素を考慮する事になるでしょう
 自らの能力、損得勘定、社会倫理、共感性、恐怖心、
 過去の経験、未来への予測、その他不確定要素……
 どの要素に重きを置き、判断するかを考えると良いでしょう」


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「思考の順序、葛藤、迷い──それらも重要な要素です。
 『まず相手の安全、次に自己の損害への憂慮・保身行為、最後に社会的評価』等の様に、
 優先順位及び時間軸での解釈の変遷は実に多様性に富むものでしょう」

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「また、其の人物が『何者であるか』も重要です。
 幼子であるのか、年長者であるのか、あるいは敵対する者か、見知らぬ存在か、親しい者か──
 立場や関係性によって、きっとあなたの判断基準は変化します。

 それらの場合でもまた、此の状況を考えてみてください」



Answer
続くくだらない質問と、シャッター音に僅かに瞳が細められた。しかしほんの僅か、だ。それに何を思うとかじゃあない。
観察対象と呼ばれる男は、カメラ男を微塵もそうとは捉えていなかった。風のどよめきだとか、雨粒が屋根を打ち付ける音だとか。そんな風に思っていた。

やはり男の唇は重く、しかし話し出せば意外にも明朗に続くのだ。

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「子供でも。年寄りでも。敵対するものでも。見知らぬものでも、僕は変わらず放置かな。
 先にも言った通り僕は僕が悪魔であると自覚してる。僕に利を提供出来ないものに僕が手を差し伸べる必要は無いよ。」

もし彼等が男が被る不利益を捲る程の利益を寄越すなら──そこで初めて思考に至る。そうでなければ、男はそんなものもまた雑草程度にしか思わないのだろう。
しかし、

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「親しいもの、は程度と場合によるだろう。」

そんな男にも情はある、らしい。定かではないが。

親しいものなら何としても救うだろうと言わないのは、男なりの分別なのか。悪魔たるもの、そんなものにうつつを抜かす訳にいかないという事なのか。
──或いは、親しいものに“あの子”を想起したか。

少なくとも男は“親しいもの”には親しみを持てる、らしかった。無機物的な男の中の、ほんの少し情動的な部分であるだろう。
誰彼構わず発せられるものではないが。無いよりずっと暖かい。

暖かい、が。今はそれだけだ。
まさかカメラ男を親しいと思う訳も無いのだし。