少年が笑うような声で言う。
──“悪い”ってことじゃない?と。
僕は少し瞬きをして、眉尻を下げて、困ったように笑う。
くしゃくしゃの癖っ毛の前髪を指先で弄って。
どう返そうか、だいぶ時間をかけて悩んで。

「……うーん。
そう決めつけちゃうの、ちょっと違う気もするけど、な」
ゆっくりと、笛をいじる少年を見ながら続ける。

「だって、その人たちも“止めなきゃいけない理由”があったんじゃない?
怖かったのかもしれないし、守りたかったのかもしれない。
君の曲がどうなるか分からなくて、不安だったとかさ」
胸に手を当てて、少し呼吸を整えて。

「自分が正しいって思えるのは、すごいことだと思うよ。
でも……自分の“正しい”が誰かを追い詰めちゃうこともあるじゃん?
誰かの“正しい”に、君が反発したみたいにさ」
ふっと目を伏せて。
深呼吸して。
自分が吐いた言葉に、自分で刺されるような心地がして。
そして同時に、目の前の彼の気を悪くしたんじゃないかと、喉がひりつく。
浅い呼吸をなんとか整えて。

「だから、相手の気持ちとか立場とか……
ちょっとだけでも考えたら、見え方変わるかもって思う」
また、酷い頭痛がする。
視界の奥がじりじりして、どこか遠くで思い出が軋んだ気がする。
僕は一体、何をして──
何を忘れて、ここに居るんだろう。

「……“悪い”って、そんな簡単に決められるもんじゃないよ
悪い、は、誰かにとっての、正しい、かもしれないんだ」
そうでなければ、僕はこんなに悲しむこともなかった。
人の気持ちや仕組みは、コインの裏表のように簡単に決められるようなものではなかったから。
──ふ、と、苺の甘酸っぱい香りがした気がした。
同時に、じくじくと傷んだ頭の中や、胸の奥が少しだけマシになった心地がした。
……そうだ、僕に苺を食べさせてくれた人がいたことを思い出した。
どうして忘れていたのだろう。
幾一と僕、そして彼女の3人で、笑い合っていた昨日があったこと。
正しくない僕達が、しあわせだった時間がたしかにあったこと。それは、悪いことなんかじゃ、なかった。