Chapter02-04

記録者: 古閑 茶太郎 (ENo. 1)
Version: 1 | 確定日時: 2025-12-10 04:00:00

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風が通り抜けるような軽い笑い声は相槌のように。
ずっとにこやかに話を聞いている少年は、納得したみたいに数度頷いた後。

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「うんうん!じゃあ次は……ちょっと似たような質問なんだけどさ」

明るさはそのまま、けれど瞳の奥に──ほんの少しだけ鋭さが宿る。

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「君は自分が“正しい”と──思ってる?」

問いかけるトーン自体は軽い。
けれど、その笑顔の裏側から何かが覗く。
あなたの返答を待つ足は楽しげにぶらぶら揺れているのに、
視線だけは、明確に「答え」を探している。

子供の遊びのリズムの中に、
ほんの少しの、刃のような期待。

──あなたは自らを“正しい”と言えますか?

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「僕はさっき言った通り!
 自分の事を正しいと思うから、自分がみんなに聞かせている音が正しいと思っているから、
 僕は笛を吹くし、みんなを導くんだ。だってそうでしょ?」

軽やかに笑いながら、しかし言葉には確信がある。

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「ずっと働かなきゃいけない閉鎖的な村も、
 つまみ食いしたら一日ご飯をもらえないのも、
 重い税金も、いじわるなおばあさんも、変わらせてくれない。
 間違ってるから──導いてあげなきゃいけないでしょ?」


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「自分が正しいって信じてる人はね、迷わずに進めるんだ。
 曲が途切れないんだよ。ほら、楽譜って止まるとそこで“死んじゃう”からさ」

どこまでも明るい声で、
どこまでもまっすぐに、
少年は“正しさ”を語っていた。
──それで、あなたの答えを待っている。
Answer
僕が、正しいと、思ってるかって……?
そんなの、わかんないよ。そもそも僕は“正しいことをしたくて”やってるわけじゃない。
ただ――“そうしないと、誰かが困るから”。
“僕のせいで”誰かが傷ついたり悲しんだりするの、もう嫌で。
だから、正しいかどうかなんて後回しで、
僕が選べるいちばんマシな選択肢を選んでるだけ。

それにさ。
僕が正しいと思っちゃったら……
僕みたいなのが「正しい」なんて言い出したら……
きっと、ロクなことにならない。

僕は、自分の直感や判断を信用してない。
信用したらダメな気がしてる。
だって、昔からずっと“間違えてきた”から。

でも、何も選ばないで立ち止まってたら、
後ろの誰かが死ぬかもしれないんだよ。
だったら――怖くても進むしかない。

……正しいかどうかなんて、わかるわけないよ。

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「……わかんない、かな。
 僕、自分のことあんまり信用してないから。
 ただ、誰かが困るのが嫌で……それで動いてるだけなんだ。
 正しいとかじゃなくて……“そうするしかない”って思うから動いてるだけ。
 もし間違ってても……そのときは、ちゃんと責任とるよ。」

幾一を助けたことも、正しい事だったかはわからない。
──あの日、彼は自分で命の区切りをつけようとしていた。
それを引き留めたのは、社会的には正しかったかもしれないけど……
彼にとっては死に損なって、苦しみを長引かせただけだったかもしれない。
僕の行動が、彼にとっては加害行為になり得たかもしれない。
だけど、あの時僕は、それが正しいと、そうすべきだと疑わなかった。
そして彼の命を救ったことの責任を、全うすべく……毎日"間違えないように"すごしていた。
そうしたことを、僕は間違いだとは思わない。
だから、彼と出会ってからの日々は、間違いじゃなかった、正しかったんだと、そう思いたい。

だけど、
だから……

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「ごめん、うまく話せなくて……」


また、酷く頭痛がする。

僕は、何かを間違えた気がするんだ。
幾一にしたことに関しては、間違いではなかったと思っている。
でも――僕は別の場所で、決定的に“何か”を間違えた。
その瞬間だけが、ぽっかり抜け落ちている。

僕がここに来ることになった理由。
その直前の“なにか大事なもの”。
そこだけ靄がかかったみたいに思い出せない。

額を覆う指先が震える。
前頭葉の奥から、痛みが押し寄せては、波のように引いていく。
思い出しそうで、思い出したくない“断片”。
触れたら戻れなくなるような気配だけが、ずっと僕の頭の中でくすぶっていた。