僕が、正しいと、思ってるかって……?
そんなの、わかんないよ。そもそも僕は“正しいことをしたくて”やってるわけじゃない。
ただ――“そうしないと、誰かが困るから”。
“僕のせいで”誰かが傷ついたり悲しんだりするの、もう嫌で。
だから、正しいかどうかなんて後回しで、
僕が選べるいちばんマシな選択肢を選んでるだけ。
それにさ。
僕が正しいと思っちゃったら……
僕みたいなのが「正しい」なんて言い出したら……
きっと、ロクなことにならない。
僕は、自分の直感や判断を信用してない。
信用したらダメな気がしてる。
だって、昔からずっと“間違えてきた”から。
でも、何も選ばないで立ち止まってたら、
後ろの誰かが死ぬかもしれないんだよ。
だったら――怖くても進むしかない。
……正しいかどうかなんて、わかるわけないよ。

「……わかんない、かな。
僕、自分のことあんまり信用してないから。
ただ、誰かが困るのが嫌で……それで動いてるだけなんだ。
正しいとかじゃなくて……“そうするしかない”って思うから動いてるだけ。
もし間違ってても……そのときは、ちゃんと責任とるよ。」
幾一を助けたことも、正しい事だったかはわからない。
──あの日、彼は自分で命の区切りをつけようとしていた。
それを引き留めたのは、社会的には正しかったかもしれないけど……
彼にとっては死に損なって、苦しみを長引かせただけだったかもしれない。
僕の行動が、彼にとっては加害行為になり得たかもしれない。
だけど、あの時僕は、それが正しいと、そうすべきだと疑わなかった。
そして彼の命を救ったことの責任を、全うすべく……毎日"間違えないように"すごしていた。
そうしたことを、僕は間違いだとは思わない。
だから、彼と出会ってからの日々は、間違いじゃなかった、
正しかったんだと、そう思いたい。
だけど、
だから……

「ごめん、うまく話せなくて……」
また、酷く頭痛がする。
僕は、何かを間違えた気がするんだ。
幾一にしたことに関しては、間違いではなかったと思っている。
でも――僕は別の場所で、決定的に“何か”を間違えた。
その瞬間だけが、ぽっかり抜け落ちている。
僕がここに来ることになった理由。
その直前の“なにか大事なもの”。
そこだけ靄がかかったみたいに思い出せない。
額を覆う指先が震える。
前頭葉の奥から、痛みが押し寄せては、波のように引いていく。
思い出しそうで、思い出したくない“断片”。
触れたら戻れなくなるような気配だけが、ずっと僕の頭の中でくすぶっていた。