Chapter02-03

記録者: 古閑 茶太郎 (ENo. 1)
Version: 1 | 確定日時: 2025-12-10 04:00:00

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奇抜な色の羽織をひらりひら。
あなたの言葉を頷きながら聴いて、なるほど!なんて相槌を入れた。
少年にとってあなたの言葉は新鮮な音列なのだろう。
ありがとう!なんて言葉は程々に。また次のトイカケがあなたに振られた。

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「ねえねえ、君に訊きたいんだ。
 僕ってさ──いつも思うんだ。“正しいこと”って何なんだろうって?」

少年は笛を軽く指先でくるくる回し、空気に音の波を描くようにして言う。

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「だってさ、僕が吹く笛が誰かを笑顔にしたとき、
 それは“正しいこと”な感じがするでしょ?
 でも、もし誰かが嫌な気持ちになったら……それは“間違い”になるのかな?」


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「ね、君は──“正しい”ってなんだと思う?


──あなたは、何をもって“正しい”と判断しますか?

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「僕はさ、間違いなんてないと思うんだ。
 高い音も低い音も、速いテンポも遅いテンポも、全部必要で、
 楽しさも悲しさもぜーんぶ、大事なものなんだ!
 だから全部正しいって言えるんじゃないかなって」

見えない舞台の上で踊るように広げた両手。
世界のあらゆる感情を抱きしめるかのように、無邪気で貪欲だ。

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「たとえ誰かが“間違い”って言っても、
 そのせいで誰かが笑ったり泣いたり、変わるなら、
 それは正しいことになるんだ!」

少しだけ、笛の端がきらりと光った気がした。
正しさは、正解ではなく──変化そのものなのだと、少年は信じている。

少年は笛を胸に抱き、満足げに微笑んだ。

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「僕は“自分が正しい”と信じてる。だから誰かに間違ってると言われても気にならない!

 君はどう?周りの音は気にしちゃうタイプかな?
 それとも、君も自分の旋律を持っているのかな?
 ──君にとって“正しい”て何?」

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「……正しいって、なんだろう」


白い部屋は静かで、少年はまっすぐに僕を見ていた。
“正しいってなんだと思う?”
たったそれだけの問いなのに、胸の奥のどこか柔らかいところをそっと突かれた。

僕は“正しい”の意味を、ずっと間違えて覚えていたのかもしれない。

誰かに怒られないことが正しい。
誰かに嫌われないことが正しい。
誰かの役に立てるなら、それが正しい。

――そんな風に、世界の形をずっと勘違いしてきた。

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「正しいって、さ……」


言葉が口まで来て、でもひっかかる。
少年に聞かせるべきか、それとも胸の内だけに留めるべきか。
迷って、迷って……結局、心の中でつぶやいただけだった。

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「僕の場合は、“正しくいたい”じゃなくて、“間違えちゃいけない”なんだよね……」


あの人が笑ってくれたらそれが正しい。
あの人が悲しんだら、それは全部僕の間違い。
そんな風に、他人の気持ちを基準にして自分を測って、
いつの間にか“正しい”が自分のものじゃなくなっていた。

でも、目の前の少年は違う。
彼の“正しさ”は外から与えられたものじゃない。
自分で選んで、自分で進むためのものだ。

羨ましい。
ほんとに、心の底から。
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「……僕ね、正しいって“誰かを傷つけない選択”のことだと思ってたんだ。
 でも……それって、本当に正しいって言えるのかな。
 自分のことを置き去りにしてるだけじゃない?」


怖くて、胸の奥がざわつく。
それでも言わずにはいられなかった。

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「僕が思う“正しい”は……たぶん、“誰かのため”じゃなくて、
 “それを選んだ自分を、ちゃんと受け止められるかどうか”なんだと思う。」


そして浮かぶ、彼の笑顔。
目の前の少年とは違う、もう届かないはずの笑顔。

彼が選んだ結末は、社会的には……正しくないことだったと思う。
でも、彼は自分の区切りを、自分自身の意思で選んで、
それまでは生きて、僕を愛して、最後の瞬間まで“自分の曲”を奏でようとしていた。

そこには恐れも痛みも、逃げでもなかった。
ただ、自分で決めた終わりを、生ききっただけだった。

だから僕は、その選択を……どうしても正しくないとは思えなかった。
悲しいのに、悔しいのに、
それでも、あれは確かに彼の人生の“答え”だったのだと、どこかで分かってしまっている。

──ポツリ、と、雨が降ってきた気がした。
泣けたらよかったのに。
笑えたらよかったのに。
どちらも上手にできない僕は、ただ半端なまま。
向こう側にもあちら側にも行けずに、
こうして白い部屋の真ん中で、立ちすくんでいるだけだった。