Chapter02-03

記録者: ウィルフレッド・メイフィールド (ENo. 13)
Version: 1 | 確定日時: 2025-12-10 04:00:00

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奇抜な色の羽織をひらりひら。
あなたの言葉を頷きながら聴いて、なるほど!なんて相槌を入れた。
少年にとってあなたの言葉は新鮮な音列なのだろう。
ありがとう!なんて言葉は程々に。また次のトイカケがあなたに振られた。

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「ねえねえ、君に訊きたいんだ。
 僕ってさ──いつも思うんだ。“正しいこと”って何なんだろうって?」

少年は笛を軽く指先でくるくる回し、空気に音の波を描くようにして言う。

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「だってさ、僕が吹く笛が誰かを笑顔にしたとき、
 それは“正しいこと”な感じがするでしょ?
 でも、もし誰かが嫌な気持ちになったら……それは“間違い”になるのかな?」


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「ね、君は──“正しい”ってなんだと思う?


──あなたは、何をもって“正しい”と判断しますか?

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「僕はさ、間違いなんてないと思うんだ。
 高い音も低い音も、速いテンポも遅いテンポも、全部必要で、
 楽しさも悲しさもぜーんぶ、大事なものなんだ!
 だから全部正しいって言えるんじゃないかなって」

見えない舞台の上で踊るように広げた両手。
世界のあらゆる感情を抱きしめるかのように、無邪気で貪欲だ。

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「たとえ誰かが“間違い”って言っても、
 そのせいで誰かが笑ったり泣いたり、変わるなら、
 それは正しいことになるんだ!」

少しだけ、笛の端がきらりと光った気がした。
正しさは、正解ではなく──変化そのものなのだと、少年は信じている。

少年は笛を胸に抱き、満足げに微笑んだ。

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「僕は“自分が正しい”と信じてる。だから誰かに間違ってると言われても気にならない!

 君はどう?周りの音は気にしちゃうタイプかな?
 それとも、君も自分の旋律を持っているのかな?
 ──君にとって“正しい”て何?」

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……。
 ……僕の言った言葉を、努々忘れるなよ。

ぼそりと少年の言葉を聞き終えた後に男は呟いた。
じっと心の中まで覗くように向けられていた
彼の蒼い瞳が、ふと、軽く横に逸れた。
それは何かを諦めたような、
あとは本人に全ての選択を委ねたような……
そんな徐々に熱を失っていく視線であるようだった。

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「……正しさとは、各々が持つ尺度だと思っている。」
「尺度……所謂物差しだ。
 人々が自分の思う正しさを目盛りとして書いた物差し。」
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「目盛りの間隔も、物差し自体の長さも人によって異なる
 ……自由で、不規則な、当てにならないようなものだ。」

男の回答は少しだけ少年に近いものだろうか。
彼は正しさというものに”正しい形はない”と答えた。

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「正しさとは、実に不確かなものだ。」
「自分の持つ尺度が一体どれだけ”正しい”かなんてことはわからない。
 何故なら他人もそれが”正しい”かどうかなんて知らないからだ。」
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「だが、わからないから仕方ないね、ともならないのが社会だ。
 そして曖昧なものを掲げる訳にはいかないからと人は法という
 “多くの者が参照すべき物差し”を作り上げたのだよ。」
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「まあ……それだって国によって異なるし、
 時代が違えば、国の舵を取る人間が変われば
 変わっていくものだがね。」

こうするべきだ、こうしなければならない。
これは間違いであるからやってはいけない。
決まりとしてある程度誰もが参照すべき”正しさ”はあるだろう。
しかし、それだって絶対ではない。
少し過去を振り返れば、今とは違う正しさで人々は生きている。

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「自分が正しいと信じることは悪いことではない。
 けれども他人の意見は多少、聞くことをお勧めするのだよ。」
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「各々が持つはっきりした形を持たない物差しは、
 多くの者と関わり、多くを知ることでその長さを、
 形を、目盛りの幅を変えていくものだ。」
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「今、君が持っているものが”絶対的に正しい”とは限らない。」
「そして当然、
 僕自身が持つ尺度も絶対的に正しいかはわからない。」

虚空を測るように男は軽く両腕を広げる。
その広げた大きさは他人から見れば大きいかもしれないし、
思っていたよりも小さいかもしれない。
“そういうもの”を彼は”正しさ”と呼んでいる。

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「他人に間違いを指摘された際に落ち込む必要はない。
 自分の在り方を揺らがせる必要もない。」
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「ただ、何故相手がそう指摘したのかを考えたまえよ。」
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「そうすることでより君は自身の正しさを信じられるようになる。
 漠然と良いものだから正しい筈、という考え方が強固なものになっていく。」

男は静かに両腕を閉じる。
彼の正しさを表す物差しは一体どれ程の長さなのだろうか。
それを知る術はない。それは見る事が叶わないものだからだ。

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「多くを知り、多くを考え、磨き上げて作り上げるもの。
 一人ひとり長さも間隔も違うけれど、確かに何かを測っているもの。」
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「誰一人きちんと理解できていない、あやふやなもの。
 ……僕はそれを、正しさだと思っている。」