壁の向こうで、アルヴェンは短く頷いた。

「……なるほど。」
そういう考え方もあるのかも知れません、と
魔女の弟子は得心が行ったように目元を緩めて。
少し間を置いてから、視線をまっすぐに向けてくる。

「……でも、そうなると──
この部屋が“何のためにあるか”よりも、ひとつ気になる事が出てきます」
その瞳は、静かに試すようで同時に怯えも混じっていた。

「僕たち二人が……どうして“選ばれた”のか。」
息を吸い、淡々と自分の理由を述べる。

「僕は……分かりやすい理由があります。
魔女の弟子で、“余白”とか“境界”に関する魔術に関わってますし。
こういう現象に巻き込まれることも、まあ……そういう縁も有り得るかな、と」
そして、首を少し傾げた。

「でも、あなたは……どうなんでしょう?」
魔女の弟子は言葉を選ぶようにして続ける。

「失礼な意味じゃないんですが……
あなたが“ここに呼ばれる理由”って、なんだと思いますか?」
フェルヴァリオは、机に肘をついたまま、心底だるそうに天井を見上げた。

「……めっちゃくちゃだるい質問」
フラスコを軽く振ってから、ぽつぽつと言う。

「おしゃべりだから……かな?」
一拍。

「……それとも、錬金術で人間をちょっと減らしすぎちゃったからか」
言い方は軽いのに、内容は重い。

「あるいは……
創造主サマとやらに、興味持たれたとか?」
肩をすくめる。

「どれにしてもさ……」
鞄を開けて、ごそごそと探る。

「面倒だなぁー、ほんと」
そして指先でつまみ出した、細くてミミズみたいな何かを、ぽいっと
フラスコの中へ放り込んだ。
ちゃぽん、と小さな音。
虹色だった液体が、ゆっくりと色を濁らせていく。
フェルヴァリオはそれを見つめながら、ぽつり。

「……どうせ、測られてるなら好きに測ればいいんじゃない?」
アルヴェンは、その材料と答え方の両方に、言葉を失った顔をしていた。
白い部屋の空気だけが、静かに張りつめていく。