またしても、真っ白な部屋。
椅子がひとつ、ぽつんと置かれているだけの空間。
フェルヴァリオはとりあえず腰掛けてみたが、何も起きない。

「……じゃあ、やれることやるか」
いそいそと鞄を広げ、錬金術の道具を取り出し、即席の机や台を組み立て始めた、
そのとき。
──す、と。
白い壁が裂けるようにひらけた。
光の向こう側にいたのは、見知らぬ人物。
ローブ姿で、少し寝癖のついた髪。
中性的な顔立ちの男性。
目が合う。

「うわっ、人がいる?!」
壁があったろう辺りを確かめるように視線を移し、
それからまた改めてフェルヴァリオへと目を向ける。

「すみません、失礼ですが……ここ、精神界の簡易領域……ですか?
……いや、違う……にしては安定しすぎてるな……」
大人というにはあどけないその人は、
訊ねておきながらぶつぶつと思考を整理するような呟きを続けて、
それから問いを擲ったことに気付いてはっとした顔で頭を下げた。

「ああ、すみません……こういう現象は初めてでは無くて。
でも僕が知っているのと根本が違うようなそんな気が……、
というのはいいんでした。ええっと、あなたも巻き込まれた側……?」
まじまじとフェルヴァリオのだらけた姿を見て、うんうんと頷いて、
それから軽い咳ばらいをした。

「……そしたら、少し情報共有しておきますね。
僕は『余白』の魔女の弟子、アルヴェンです。
寝たと思ったらこの空間に居て、椅子に座ったらあなたが急に現れて……」

「それで……僕からは、何故かあなたの姿がはっきりと見えないんです。
ぼんやりしているというより、幾重にも形が重なっているような……そんな風に見えるというか。
声もそうですが、一応意思疎通は出来なくは無さそう……ですね。
……あなたからもそう見えてるんですかね……」
声ははっきりしているのに、
フェルヴァリオの姿はどこか輪郭がぼやけて見えるようだった。
アルヴェンは目をぱちぱちさせながら、それから彼は、どこか居心地が悪いような、
申し訳ないように眉根を下げて首を傾げ、
問いを投げなければいけない気分になってしまう。

「……あなたは、この白い部屋をどう思いますか?」
フェルヴァリオはフラスコを並べながら、ちらっと振り返る。

「えー……おかしな部屋」
手は止めない。
乳鉢に薬草を入れながら、ぽつりぽつりと続ける。

「まあ……こうやって静かに錬金できるのはいいんだけど」
カチ、と器を置く音。

「リセットされるっぽいんだよね、ここ」
すでに簡易の卓も出現している。

「机とか用意してみたけど……どうしたもんかな、これ」
部屋は相変わらず白いまま。
長い溜息をひとつした後、魔女の弟子は改めてフェルヴァリオを見た。
目の隠れがちな前髪がさらりと揺れた。
空間が微かに揺れる。
また、新しい問いかけが始まろうとしていた。