まぶたを開くと、視界にまず飛び込んできたのは──
フラスコがひっくり返った音。
カラン……と細いガラスの転がる音が、静かな部屋に妙に響いている。
フェルヴァリオは、はっと飛び起きた。

「……えっ?」
自分が倒れていた寝台。いつもの調合部屋。焰の明かり、薬草の匂い。
どれも現実だ。
なのに──

「なん、で……?」
調合机の上は嵐が過ぎた後のようだった。
フラスコが横倒し、素材の袋が半分こぼれている、
羊皮紙は床に散乱し、なぜか金の天秤が逆向きに置かれている。
さっき仕込んだはずの液体が、見知らぬ色に変化している。
フェルヴァリオは頭を押さえ、気だるげに言葉を漏らす。

「……誰だよ、勝手に触ったの……?」
だがすぐ思い出す。
白い部屋。
白い椅子。
解けそうで解けない問い。

「……夢、だったはず……だけど」
調合机に落ちている紙切れ。それを拾い上げる。
そこには、丸い字で一言だけ書かれていた。
《またどこかで》
フェルヴァリオは固まった。

「…………は?」
息を呑む。心臓がドクンと跳ねる。

(いやいや、いや……そんなわけない。夢だ。夢でしょ?夢に決まってる……はず……だよな?)
しかし散乱した道具も、見知らぬ色の液体も、そしてその紙片も。
どれも現実の重さを持っていた。
フェルヴァリオはゆっくり、机に両肘をつき、額を押さえた。

「……ほんっと……誰なんだよ、あれ」
呆れたような、困惑したような、そしてほんの少しだけ楽しそうな声。

「どこかで会う前に……。散らかった部屋、片付けなきゃな……」
言いながらも、フェルヴァリオの指先は微かに震えていた。