Chapter02-02

記録者: ウィルフレッド・メイフィールド (ENo. 13)
Version: 1 | 確定日時: 2025-12-07 04:00:00

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「ふ~ん、君はそう考えるんだね」

あなたの回答を聞いて、頭を左右にこてん、こてんと揺らす。
メトロノームのように規則正しく、しかし気ままに。
しばらく考えた後、ぱっと何かを思いついたように指を立てた。

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「じゃあさ、次々!
 君はさ、自分自身の事をどれぐらい信用してる?

さっきのトイカケはどこへやら。
話題が飛んだように見えて、きっと彼の中では自然な転調なのだ。

──あなたは、あなた自身をどれだけ信用できていますか?

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「あは、僕は勿論信じてるよ~!
 だって僕は導き手だよ?新しい曲にみんなを会わせるのが僕の役目だもの」

少年は胸元の笛を軽く叩き、誇らしげに微笑む。
音は鳴っていないのに、そこに確かな響きがあるように感じられる。

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「それが自分のやる事すら信じられてなかったら
 なにもかもおしまいだし、一小節だって進めない!
 みんなのためになるって僕が信じてるから──僕は笛を吹けるんだ」

その言葉は軽い。なのに、妙に重い。
信じることは、約束ではなく、覚悟なのだと突きつけるみたいに。

──鮮やかな瞳があなたに問い掛ける。
Answer
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「…………。」

男はじっと子供の顔を見つめていた。
それは急にポンと飛んだ話題に不満を抱いている……
というわけでもなさそうな表情であった。
ただじっと、彼は相手を見透かすように眺めている。

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「……自分自身を信じられるか、だな。
 信用できるかという意味であれば、
 僕には数々の実績がある。」
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「故に僕は僕自身の問題解決能力などを
 信じるに値すると評価できるのだよ。」

今回の相手ではなく前回の相手に、ではあるが
散々自身の能力の高さを語ってきた彼。
その言葉たちはどれも嘘偽りはなく、
彼はその頭脳を使って多くの問題を解決してきたのだろう。
実績が自信を確かなものへと変えてくれている。
そう感じさせる程、言葉はしっかりと発されていた。

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「君と同じように僕自身が僕のことを信じてやらねば
 途端に解決できるものは無くなるだろう。」
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「これが解であると誰よりも僕が胸を張れなければ、
 依頼者たちにいらん不安を与えることになるしな。」

少年が自分自身の行動を肯定するように、
男もまた自分の行動を肯定している。
そうしなければならない立場に二人はきっと立っていた。

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「──ただ、己の全てを信じるかどうかは別だ。」

しかし、ふと蒼い瞳は鮮やかな瞳を強く見つめ返した。
相反する色が見つめ合う。お互い確かな主張を持って。

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「僕の仕事は思い込みが酷い足枷になるのでね、
 他人の言葉すら届かなくなる程自分を信じきりはしない。」
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「特に君のようにこの行動は誰かのためになるから、
 なんて考え方はしないな。
 その考え方は簡単に自分の見る世界を歪めかねん。」
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「もちろん、君の在り方を否定したいわけではない。
 君にはそう在る必要性があるのかもしれないからな。」

相手の詳しい事情を知らないから真っ向から否定はしない。
そんな風に言葉では言っているものの、
男は相手の在り方に少々難色を示しているようだった。
少なくとも、自分を信じていていいね。
なんて言葉は彼から出てくることはないだろう。
もしかしたら彼は信じるという行為を慎重に扱いたいのかもしれない。

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「君がたとえば全知全能の神であるのだとしたら。
 今までの言葉は全て撤回させてもらうがね。」
「そのような存在に自分は不安に駆られながら
 世界を創造しました、なんて言われたら
 たまったものではないのだよ。」
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「……でも、そういうわけではないのであれば。
 僕らは平等に間違いを起こす生き物だということになる。」
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「であれば全幅の信頼を自身に寄せることは不可能だ。
 完璧な、間違えのない道だけを選べる生き物など存在しない。」

男は蒼い目をひとつも揺らさず目の前の相手に語りかけていた。
どれほどその言葉が届いているのかはきっと彼にもわからない。
それでも、全ての言葉が届くことを願って彼は言葉を紡いでいる。

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「自分を信用することはいい、自信は持っているべきだ。
 実績が、積み上げたものが、誰かを笑顔にした事があるのなら……
 それらを誇ることは間違いではない。忘れずに持っておけ。」
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「しかし過度な信頼は自分にしないほうがいいのだよ。
 それは取り返しのつかない間違いをいつか引き起こす。
 君は自身を信用するかと僕に問いかけたが君の言う信用には……
 些か妄信に近いものを感じたのだよ。
 正しさの、押し付けのようなものを。」
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「君がどんな環境で、どんな事を成したかは知らないがな。
 多くの人の言葉を聞きたまえよ。
 奏でるだけではなく聞く事もきっと嫌いではないのだろう?」

それは大人が子供に勧告しているようだった。
自分の歩んできた道を恥じたり、後悔したりしているわけではない
そんな男が告げるこれから先へ向けた忠告だったのかもしれない。

兎も角男は真っ直ぐ、澄んだ瞳で相手を見ていた。
この先続く相手の言の葉を、相手の浮かべる表情を。
何もかも見逃さないように真剣な眼差しをしていたのだった。