Chapter03-02

記録者: ミラ・ステラウィッシュ (ENo. 144)
Version: 1 | 確定日時: 2025-12-07 04:00:00

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返事が返ってくれば、おー、なんて緩い声。
女は椅子の背もたれにだらりと寄りかかり、片手で髪を弄る。
視線だけはあなたに向いているが、どこか遠くを見つめるようでもあった。

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「ねぇクロ。その話で思ったんだけどさ……
 ……変わる事って、どうしてこんなに難しいんだろうね」

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「小さい頃はさ、色々なものに手を出せて、影響を貰えて、変わっていけて、
 でも今は……うーん、なんか、平行線というか……」

手の動きが、無意識に髪を絡める。
その髪の長さが、絡めた長さほど短かった頃を思い返すように。
“過去の自分”と今の自分を結ぶ糸を手繰っているかのように。

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「努力して変わろうと思っても、どうにも体が動かないっていうか。
 変われるかもって期待して、結局同じとこにいるっていうか……。

 踏み出したと思っても、そんな事は無くて、
 思い知らされる……というか、さ」

言葉に迷うような沈黙が一つ。
下に移動していた視線をあなたに持ち上げ直して、首を傾いだ。

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「クロはどう?
 変わろうって思うのに、……よくないと分かってるのに、
 どうしても変われないことってある?」


──あなたには“変われないもの”はありますか?

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「ウチさ、“変わる気がない”わけじゃないんだよね。
 むしろ、変わりたいとは思うんだよ。
 だって、このままじゃ嫌だし。退屈だし。……置いていかれそうだし」

口では軽く言いながらも、指先は神経質にリボンをつまむ。

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「でもさ、変わるって……“今の自分を捨てる”みたいな感じしない?
 少なくとも現状って友達もいて、安全で、飢えはしなくて、凍えもしないし、傷付きもしない……。
 変わって無くなるのって……ちょっとだけ怖いんだよね。
 無くならない保証なんてされてないし、さ」

彼女は笑う。
けれどそれは苦笑とも、呆けともつかない曖昧な笑みだ。

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「“変わりたい理由”と、“変わらないままでいたい理由”、
 つり合いがとれちゃってる、のかな。だから動けないのかも。
 ウチ、そこらへんでいつも足止め食らってんの、マジだる」


言いながら、女は足を組み替える。
動きたいのに動かない身体を、座り直して誤魔化しているように。

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「クロはどう?
 変われないものってある?
 それって、なんでだと思う?」

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「あら、シロ、あなたは変わりたいの?」

瞬き一つ問い返して、ポツポツと語るシロの言葉に一つ一つ頷きながら耳を傾けていただろう。
その問いかけが途絶えるのを待って、唇を開いた。

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「そうね、シロの悩みはとても難しいわ。変わることは簡単ではない。その通りね」

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「シロは小さな頃は簡単に変われた、と言うけれど、きっと簡単じゃなかったのよ。小さな頃だって大変だったのだと思うわ。大変だと気づかなかっただけで」

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「だから、きっと今も同じ、でも今度は変わっていることに気が付かないんじゃないかしら。きっと今もシロはゆっくり変わっていってると思うわ。気づかないだけで」

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「私は魔法でその『変わりたい』気持ちの背中を押すこともするわ。でもね、一番は『変わりたい』と思うことですでに変わり始めているのよ」

だから大丈夫、と言うように微笑みかけるだろう。そして自身に対する問いかけには少し視線を宙に浮かせ、考える様子を見せる。

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「私が変われないこと……? そうねぇ、体に悪いと知っていても、これがやめられないこと、かしら?」

そう言って唇に指を当てて、指に挟んだものを吸って吐く仕草をして微笑む。

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「他にもいくつか、きっと譲れないものはあるわね。でも私はそれが良くないとしても、変わりたいとは思えないわ。変わりたくない、の方が大きいのね」

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「シロは変わりたいと思っているなら、いつか変われると思うわ。変わらないなら、それは変わる必要がないだけかも知れない。無理をしてまで変わらなくても良いんじゃないかしら」

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「のんびり一服するのだって、大切な時間よ、無意味ではないわ」