
「まあ、そうだね……うん、それは思いのほか難しい質問だな。
普通とは何か、か……」
彼は少し困ったような笑みを浮かべながら、オブザーバーに視線を向ける
――ふりをした。
それは彼の昔ながらの癖の一つだ。その視界の中ではロクに見えてもいないのに、視線を相手に向けたり顔を近づけるような仕草をする。観察したいという意思がそうさせるのか、あるいは親密を表す交渉術の一つなのか、だが本人にも自覚はない。

「では、キミの世界と比較して答えよう。
まず、私の世界では機械人形というものは一般的ではなかった。そういう代物、あるいはそれに近いものを開発している技師はいただろうが、そこまで普及はしていなかったと記憶しているね。」
彼は過去の記憶を振り返りながら難しい顔をして考え込む。
その後も何を説明すべきなのか、うーんうんと唸りながら腕を組んで、首を傾げて、天井を仰いだ。

「あとは……そうだな。魔法が一般的に普及していた、かな。
あるいは私のように、亜人種――キミの語る世界にもいる“人間”に、似た姿の別種族。獣や精霊の特性を併せ持つもの、そういう人々が普遍的に存在していた。」
そして彼はゆっくりと手を組み、足を組み、ニコリとした感情の読み取れない笑顔を浮かべた。

「ああそう、私もね。精霊族、あるいはエルフと呼ばれる亜人の一種だよ。
基本的には人間より秀でた魔法技術を持つ長命種と言われている。」

「私もこう見えてもうすぐ90歳になるんだ。
といっても……機械人形のキミに人間の年齢が理解できるのか、わからないけどね。」
彼は皮肉めいた表情でそう語ると、また煙草の煙をゆらゆらと吐き始めた。
その仕草は回答の終わりを表しているようだ。
―――私とて、決して“普通”の側にいたわけじゃない。
けれど、そんなのは今更些事だろう。
――これだけの異常現象が起きる世界で、今更“普通かどうか”など。