Chapter01-01

記録者: アルヴラスト・アークライツ (ENo. 213)
Version: 1 | 確定日時: 2025-12-07 04:00:00

クリックで開閉
あなたがふと気が付けば、真っ白な部屋に居た。
そこには椅子がひとつ置いてあるだけで、他に何もない。

あなたがその椅子に、座ったとき
あなたは視界の“先”に、誰かがいることに気が付いた。
白い部屋のなか、白い椅子に誰かが、座っていた。


  ──カシャ


何かが擦れるような、もしくは閉じるような音。
その音は対面の椅子から聴こえてくる。

それは────人物と解釈は出来はするだろう。

腕が二本あり、脚が二本ある。
それなりに体格の良さそうな身体に──無機質な四角いかたちが、乗っている。
あなたにその知識があるならば、それはカメラのように見えるだろう。
艶やかなレンズがじっとあなたを見詰めるように据えられていた。


icon
「……」


……そうしてその状態のまま、暫く。
沈黙に耐えかねてか、将又訝しんでか、あなたが口を開こうとした時、
もしくは、十分すぎる時間が経った後に、声がする。

icon
「……あなたは私を観測可能ですか?」

男性的な声だ。決して被り物の様にくぐもった声はせず、妙に鮮明な音色。
どこか奇妙な言い回しの後、まるで咳払いをするように、
人であれば口元に当たるだろう所に軽く手を添えて、
それから改まって一つ礼をした。

icon
「先ほどは不躾に見つめてしまい申し訳ありません。
 状況を把握するため暫し観察を行っておりました」

icon
「当機は此の場所について説明をすることが不可能です。
 この部屋についての事前情報はインストールされておりません。
 再起動した時にはこの部屋に在りました」


……即ち、この者もまたこの部屋に居る理由を知らないという事だろう。
彼方もまた、この部屋に呼ばれた者の一人……ひとつであるようだ。
現状を確認するようにレンズを左右に向けたソレは、しまいには改まってあなたにレンズを向け直す。
ピントを合わせるようにレンズがくるりと回り、それから頷くように一つ頭を揺らした。

icon
「観察対象、まずはあなたという存在を記録するための
 初期照合を致します」

icon
「あなたの識別情報を教えてください。──名前、呼称、あるいはそう呼ばれる理由を」

icon
「あなたを“あなた”と定義する特徴を」




──あなたは得体の知れない観察者に、どのような自己紹介をしますか?


sample
icon
「──失礼致しました。まずは当機から情報を開示すべきでしたね」

きゅり、とレンズがまた周り、一拍の間。
まくしたてる事は不信感や警戒を生む事を
判っているからこその故意の間であった。

──あなたは回答せずとも良いのだろう。
コレはあなたを観察対象と認めたようだが、
観察される事を万人が受け入れる訳も無いのだから。



icon
「当機はAster Visual Automataシリーズのβライン第9号機。
 即ちAVA-β09、通称Observerオブザーバーと申します。」

icon
「Asterismは情報観測機器を製造する企業ですが、
 中でもAVAシリーズは主に長期観測任務に使用される自律稼働式人形です。
 当機はその中の一つで御座います」


そこまで説明をして、あなたの顔を窺う。
どうも中々ピントが合わない様子で、暫くレンズを回した後。
考えているかのようにまた手をレンズの傍に沿えていた。
して、数拍。

icon
「…………。」

icon
「即ち、オートマタと呼ばれる機械式人形のひとつで御座います。
 その中でも、観察・観測を目的として製造されたものです。以後何卒お聞き見知り」


説明が難しかったろうと解釈したらしい。
其処まで告げ、改めて頭部を深々と下げた。──さて、あなたの番だ。
Answer
icon
「ふうん、オートマタ……ね。
 知らないわけではないけれど、面と向かって見るのは初めてかな。」

“彼”は含みのある言葉で応えながら、部屋の中を確かめるようにぐるりと視線を回した。
しかし怪しく光るその瞳はどこか虚ろで、焦点が合わずに揺らいでいる。
彼の傍らにいる白蛇のような怪物がその視線の先を追うようにふわりと漂った。

icon
「いいよ、教えてあげよう。
 私はアークライツ、旅する魔法生物研究者さ。」
そう言うと彼は人懐こい笑顔を浮かべて片手を軽く振った。
icon
「初対面の相手にアイデンティティを問われるのは些か納得いかないけれど……
 まあ、こんな何もない部屋に入れられたんじゃあ他にやることもないわけだし、少しばかり語ってあげるよ。」
特別だよ?と付け足しながら、彼は怪しく光る青色の瞳を細めて笑う。


icon
「私はね……何年か前まではとある王国の研究所で働いていたんだ。
 でも戦争に巻き込まれてね、私も一応参戦はしたんだけれど、ほら。戦いは本職じゃないだろう? 戦況もあまりよろしくなくて、それで……」
そこで彼は静かに目を閉じ、一息ついた。
icon
「少々、無茶をしてしまってね。
 元々悪かった視力を完全に失ってしまったんだよ。」
自嘲的な苦笑いで答えたあと、彼は慣れた手つきでポーチから銀色の煙管キセルを取り出して一服、ゆるりと煙を吐き出した。

icon
「ま、それで……盲目のままじゃあ不便だし、研究にも差し障るからね。
 こうして ノア の視界を借りながら、どうにか視力を取り戻す方法を探して旅をしているってわけさ。」
そこまで言い切ると、彼はノアと呼ばれた白蛇の使い魔をするりと撫で、語り終えたと言わんばかりの態度でのんびりと煙草をくゆらせた。


――別に隠しているわけではないが、大っぴらにしているわけでもない。
  話したくない事は伏せたまま、手札を軽く開けただけさ。
  その方が相手からの情報も得やすいと、私は判断している。

――それだけのことだ。決して気を許したわけじゃあない。