Chapter03-02

記録者: ミヒャエル・エルドガード (ENo. 99)
Version: 1 | 確定日時: 2025-12-07 04:00:00

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返事が返ってくれば、おー、なんて緩い声。
女は椅子の背もたれにだらりと寄りかかり、片手で髪を弄る。
視線だけはあなたに向いているが、どこか遠くを見つめるようでもあった。

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「ねぇクロ。その話で思ったんだけどさ……
 ……変わる事って、どうしてこんなに難しいんだろうね」

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「小さい頃はさ、色々なものに手を出せて、影響を貰えて、変わっていけて、
 でも今は……うーん、なんか、平行線というか……」

手の動きが、無意識に髪を絡める。
その髪の長さが、絡めた長さほど短かった頃を思い返すように。
“過去の自分”と今の自分を結ぶ糸を手繰っているかのように。

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「努力して変わろうと思っても、どうにも体が動かないっていうか。
 変われるかもって期待して、結局同じとこにいるっていうか……。

 踏み出したと思っても、そんな事は無くて、
 思い知らされる……というか、さ」

言葉に迷うような沈黙が一つ。
下に移動していた視線をあなたに持ち上げ直して、首を傾いだ。

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「クロはどう?
 変わろうって思うのに、……よくないと分かってるのに、
 どうしても変われないことってある?」


──あなたには“変われないもの”はありますか?

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「ウチさ、“変わる気がない”わけじゃないんだよね。
 むしろ、変わりたいとは思うんだよ。
 だって、このままじゃ嫌だし。退屈だし。……置いていかれそうだし」

口では軽く言いながらも、指先は神経質にリボンをつまむ。

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「でもさ、変わるって……“今の自分を捨てる”みたいな感じしない?
 少なくとも現状って友達もいて、安全で、飢えはしなくて、凍えもしないし、傷付きもしない……。
 変わって無くなるのって……ちょっとだけ怖いんだよね。
 無くならない保証なんてされてないし、さ」

彼女は笑う。
けれどそれは苦笑とも、呆けともつかない曖昧な笑みだ。

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「“変わりたい理由”と、“変わらないままでいたい理由”、
 つり合いがとれちゃってる、のかな。だから動けないのかも。
 ウチ、そこらへんでいつも足止め食らってんの、マジだる」


言いながら、女は足を組み替える。
動きたいのに動かない身体を、座り直して誤魔化しているように。

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「クロはどう?
 変われないものってある?
 それって、なんでだと思う?」

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「………」

とても、"ヒト"らしい悩み。
変に疑いを深くしなければ、この女性はヒトで間違いないとは思う。

成長を望もうとしても、どうにも体が動かないともよく聞く。
怠惰であれ、恐怖であれ、素質であれ。理由は様々。
その動かす"きっかけ"が自分ではあるが――

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「どうしても変われないこと…ね。」

現状贖罪において、【変わりたいと思うのに変われないこと】…とはあっただろうか。
思わず"ヒト"らしく、指先を口元に添え、思考する仕草を取る。

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「…舞台装置であること…かしら。」

少し、トイカケの目的とは外れるが強いて挙げられる答えはそれだ。

あの子は私に、【ヒトとしての痛みと苦しみを永遠に味わって欲しい】と願い、心を与え、ヒトの姿に変え、そして閉じ込めた。
ヒトが苦しむだろう、泣くだろうという行為を行った。"巻き戻し"と関係なく、ただ私をひたすら苦しめた。何度も、そう、何度でも。

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けれど、私はあの子が思う反応が出来なかった

元より殺されても再生し、殺されても再生し、という巡回は既に経験しており、あらゆる痛めつけ方も苦しめられ方も私は覚えている。同じことが繰り返されてるだけ・・・・・・・・・・・・・・
それでも気が済めば、と甘んじて全てを受け入れていた。そして消え、そしてまた現れた。歪なルーティーンがもう、身体に馴染んでしまった。


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「私はどうあっても…道具である定義に変わりはないもの。だから、ヒトのように振舞いなさいと願われても難しい。」

それだけは、幾度殺されても叶えられない願いだった。