Chapter01-02

記録者: リコフォス (ENo. 152)
Version: 1 | 確定日時: 2025-12-07 04:00:00

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「……」

あなたの回答を──若しくは無回答を聞き、
ソレは少しじっとあなたを見詰めていた。


  ──カシャ


それから、また先にあった音が一つ。
撮ったものを確認するような間の後、深々と頭が下がった。

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「観測結果が不明瞭です。
 当機からはあなたの言葉を完全に受け取る事は難しいようです」

どうも椅子の〝こちら側〟と〝あちら側〟では具合が違うようだ。
あなたの言を確実に受け取れているかは、あちらもこちらも分かり得ないだろう。

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「では観察対象、続けましょう」


されどコレにとっては断片でも構わないのか、きゅり、とまたレンズがあなたを向く。


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「環境データの取得。あなたの属する世界を説明してください」

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「あなたの世界では、“普通”とはどのような状態を指しますか?」


──あなたは、異世界の存在にあなたの世界のどのように説明しますか?


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「当機の世界にはこれと言って特徴があるとは考えられません」

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「当機は異世界に対する情報を持ちません。
 よって、何が特色であるかを判断するには情報が不足しています」

──基準や比較対象が無ければ、世界の比較とは難しいものだろう。
自らの世界に当たり前に存在しているものが、他の世界では存在しない可能性すらある。
自らの視野では存在しないものが、世界の中には存在している可能性だってある。

つまりは、この質問は不毛なものではある。
……比較対象が無い限りは。


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「──あなたに回答していただくためには、
 当機の世界を説明せねばなりません。
 よって当機は、平均的な一般家庭の生活環境についてご説明致します」


もしあなたが回答に窮しているのであれば、
オブザーバーの言うものを参考に、比較して述べると良いのだろう。

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「朝9時に出社する方は、平均して朝7:22に起床致します。
 家事仕事用の自立稼働人形が6時には稼働を開始しており、
 起床し着衣を着替えた後には朝食を摂取する事が可能となります。
 起床から出勤までには平均28分31秒の時間が経過しています」

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「出勤には電車やバス──公共の車両を利用する方、
 運搬用人形を利用する方ほか、徒歩で出勤する方など様々です」

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「……コンプライアンスに基づき、出勤後については
 当機から申し上げる事は出来かねます」


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「7日を一週間という単位にし、
 うちの4日が平日、うちの3日を休日と制定されております。
 居住する地は球体の惑星、衛星は現在1つ観測されております。
 衛星及び他の惑星の生活様式については当機のデータベースには御座いません」



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「……以上の内容は参考にする事は可能ですか?」



……とはいえ、此れをなぞらえる必要も無い。
あなたの自由に回答してよいだろう。

Answer
「?」
「どう不明瞭なのかがわかれば
 修正もできるけど……翻訳機構あたりならお手上げね」
「何度も記録を再生してわかることならあなた達
 ――これを視ている人たちに頑張ってもらいましょ」

「異世界の情報がない、ということはこれは"繋がる"ための前段階」
「接続、移動技術を進めている中の一つなのかしら」
「……ああ、大丈夫よ、おそらく返答……対話はないものと仮定しているわ」
「あったらどんな風に、どこが、みたいなものがあったでしょうから」

「……」

続けられた質問に、少女は口元に手を当ててしばし考える。

「機械技術が発達しているのね」
「自律型のオートマタ、だったかしら。その時点でわかっていたけど」
「その働き方はどちらかというと"王宮仕え"みたいだわ」

"普通"ね……難しい質問だわ」
「……少なくとも全く異なる文化……異世界。二つの世界の知識と」
「"どう考えても普通じゃない世界"。三つの世界を知っているから」
「今の私は三つ目の場所で生きているけれど……
 ……共通点がないといっていいくらい別物」

「(それに、)」

どちらの世界でも、自分は普通ではなかった、ようだから。
決まった生活ルーティンはあっても、一般的じゃない。
最初の世界で"普通"だと思っていたことが全くそうじゃなかった。
二つ目の世界と、三つ目の世界で知ったこと。

「(私たちみたいな"育ちかこ"が"普通"の世界なんて、最悪だだし)」
「(そうならないように働いてきたから……)」

「だから、"普通それ"を訊くのは正解ね」
「その世界での普通の生き方を比べれば、違いがわかりやすい」
「異世界を知るには一番早い質問だわ」

バラバラな生き方の全てを説明するのは難しい。
それぞれの世界の普通を一つずつ挙げる……ことさえ難しい。

「三つ目の世界には、違う世界で生きてきた人たちが呼ばれたから
 図書館っていう、たくさんの本がある場所で文化についての本を読んだり
 一定期間本を部屋に持ち帰って読むことができたから
 比べて"知っている"ことはあるけど……」

請負冒険者は機械技術の発達した世界だと『サービス業』に分類されるのかしら」
「飲食店も、宿もそうね……冒険者ギルドもそうかしら?」
「素材を育てる一次産業は身近なものだったわ」
「その一帯でしか獲れない、育てられないもの以外は
 近辺の村同士で補って、
 商隊キャラバンに足りないものをお願いして、逆に余っているものを売る」
「栄えている街になるとその余ったものを買って、料理や衣服を作って……」
「これが二次産業?」
「村にも、宿があるところなら料理を出すところはあったわ」

「……ええと、それから……」

少女は こんこん、とこめかみを叩いて説明できそうなことを探していたが
「あ」と目を見開いた。

魔法
「この有無は大きいわ」
「魔法っていうのは……
 エネルギーを特定の手順を踏むことで何かに干渉させるもの
「……と教えられたわね」
「応用も利くしこれがある世界はあまり機械技術に力を入れていない」
「両方に力を入れている世界も探せばあると思うけれど、
 行ったことがないからどんな風に使っているのかは分からないわ」

夜の明かりになにを使うかでどういう世界か測れる、と
 今のところ私は考えているけれど……普及途中ということもあり得るから」

「……そうね、私の知っている普通。
 夜でも行動できるだけの明かりが確保できること、かしら」

休日って非番のことよね?そうじゃない日のことは平日ヘイジツ……

訊かれているのはこの少女だ。
それなのに基準として説明されたことからなにかを学ぼうとしている。
オブザーバーの"向こう側"に伝われば、どういう反応をされるのだろう。
もし双方を把握できるものがいたならば、ちょっとだけそう思わせたかもしれない。