Chapter01-01

記録者: リコフォス (ENo. 152)
Version: 1 | 確定日時: 2025-12-07 04:00:00

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あなたがふと気が付けば、真っ白な部屋に居た。
そこには椅子がひとつ置いてあるだけで、他に何もない。

あなたがその椅子に、座ったとき
あなたは視界の“先”に、誰かがいることに気が付いた。
白い部屋のなか、白い椅子に誰かが、座っていた。


  ──カシャ


何かが擦れるような、もしくは閉じるような音。
その音は対面の椅子から聴こえてくる。

それは────人物と解釈は出来はするだろう。

腕が二本あり、脚が二本ある。
それなりに体格の良さそうな身体に──無機質な四角いかたちが、乗っている。
あなたにその知識があるならば、それはカメラのように見えるだろう。
艶やかなレンズがじっとあなたを見詰めるように据えられていた。


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「……」


……そうしてその状態のまま、暫く。
沈黙に耐えかねてか、将又訝しんでか、あなたが口を開こうとした時、
もしくは、十分すぎる時間が経った後に、声がする。

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「……あなたは私を観測可能ですか?」

男性的な声だ。決して被り物の様にくぐもった声はせず、妙に鮮明な音色。
どこか奇妙な言い回しの後、まるで咳払いをするように、
人であれば口元に当たるだろう所に軽く手を添えて、
それから改まって一つ礼をした。

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「先ほどは不躾に見つめてしまい申し訳ありません。
 状況を把握するため暫し観察を行っておりました」

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「当機は此の場所について説明をすることが不可能です。
 この部屋についての事前情報はインストールされておりません。
 再起動した時にはこの部屋に在りました」


……即ち、この者もまたこの部屋に居る理由を知らないという事だろう。
彼方もまた、この部屋に呼ばれた者の一人……ひとつであるようだ。
現状を確認するようにレンズを左右に向けたソレは、しまいには改まってあなたにレンズを向け直す。
ピントを合わせるようにレンズがくるりと回り、それから頷くように一つ頭を揺らした。

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「観察対象、まずはあなたという存在を記録するための
 初期照合を致します」

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「あなたの識別情報を教えてください。──名前、呼称、あるいはそう呼ばれる理由を」

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「あなたを“あなた”と定義する特徴を」




──あなたは得体の知れない観察者に、どのような自己紹介をしますか?


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「──失礼致しました。まずは当機から情報を開示すべきでしたね」

きゅり、とレンズがまた周り、一拍の間。
まくしたてる事は不信感や警戒を生む事を
判っているからこその故意の間であった。

──あなたは回答せずとも良いのだろう。
コレはあなたを観察対象と認めたようだが、
観察される事を万人が受け入れる訳も無いのだから。



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「当機はAster Visual Automataシリーズのβライン第9号機。
 即ちAVA-β09、通称Observerオブザーバーと申します。」

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「Asterismは情報観測機器を製造する企業ですが、
 中でもAVAシリーズは主に長期観測任務に使用される自律稼働式人形です。
 当機はその中の一つで御座います」


そこまで説明をして、あなたの顔を窺う。
どうも中々ピントが合わない様子で、暫くレンズを回した後。
考えているかのようにまた手をレンズの傍に沿えていた。
して、数拍。

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「…………。」

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「即ち、オートマタと呼ばれる機械式人形のひとつで御座います。
 その中でも、観察・観測を目的として製造されたものです。以後何卒お聞き見知り」


説明が難しかったろうと解釈したらしい。
其処まで告げ、改めて頭部を深々と下げた。──さて、あなたの番だ。
Answer
「……変な絵に入り込んじゃったかしら」
「最近はないと思っていたのだけれど」

詳細浅く腰掛けた少女は、観測者と名乗る者の他に変化がないかとオレンジとも茶色とも取れる目で部屋を見回す。
前は目にかからない程度、
後ろはゆるく一つの三つ編みにした黒髪をゴムや紐ではなくリボンで留めている。
化粧はしていないが左のサイドを固定するピンにもそれぞれ飾りがあり、
黒いフード付きケープの下から覗くブラウスもフリルがあしらわれている。
ハイウエストかつふくらはぎにかかる長さのスカート、その切り替えを隠すようなベスト。

『中世、外国の子女が少しだけめかしたら』
実際の当時の環境がどうあれ、そんなイメージを書き起こしたらこの少女のようになるだろうか。
編んだ髪を後頭部でまとめればもっとそれらしくなるかもしれない。

一つだけ、付け足すなら。
そう見える・・・・・』ように彼女は衣服を選んでいる

髪だっていくつもある結い方の一つ。
この部屋に来る直前まで彼女がいた場所では
そのくらいの余裕があったほうがいい、そう判断しているだけだ。

「(敵意は感じない、けど他の感情もなさそう)」
「(これが一般的な機械人形オートマタ?)」
「(次に何してくるか読めない……少し厄介ね)」

部屋から対面の相手に視線を戻し、知らないものをじっと見る様子は
ここに来た経緯がわからないことと合わせて『きょとん』と表現できるが
あどけなさを隠さない・・・・顔のまま、こんなことを考えている。

「えっと、貴方もこの部屋のことはわからないけれど、
 記録、観測が目的だとは覚えている……」

「(力ずくで何かを聞きだす様子もなさそう、なら)」

ふう、と目を閉じて息を吐く。
まぶたをあげたとき、そこにはさっきまでの純朴さは消えていた。
逆に観察することを隠さない、好奇心とこの事態を楽しむような煌々とした瞳。

「リコフォス」
「他の人が持っているようなラストネームはないわ」

「肩書は……請負冒険者」
「未踏の地を開拓したり、お宝を探すような"冒険者"とは違うの」
「依頼書をギルドに提出して、冒険者わたしたちの犯罪への利用じゃないとわかれば
 降りてきて貼りだされて、冒険者が得意な分野を引き受けてこなし、
 ギルド経由で報酬をもらって生きる。そういう職業しごと

「この記録を見た人は"若い"と思うでしょうね」
「家の手伝いをしている子くらいじゃないかしら?私たちは異例と思ってちょうだい」
「私たち。ええ、姉がいるの」

「冒険者は基本、決まったメンバーで行動するの
 その集団をクランと呼ぶわ」
「私と姉さんは二人クランでもない、無所属ね」
「でも全部二人だけってわけでもない。
 依頼に応じて別のクランに声をかけることもあるし、逆も」
「これは私たちに限らないけれど」
「複数クラン合同、っていうとちょっと重大ごとね」
「所属する全員が動くこともあるし、両方から精鋭が、ってこともあるわ」

「私たちが拠点にしていた受付……食事処と宿屋を兼ねた場所は
 私たちみたいなのがいたからクランの括りを越えやすい……
 ……ってこともあんまりなかったわ」
「それだけクランって重要な帰属先にもなるの」
「なんでどこにも入らないのか……」
「……気になるでしょう?」

説明のために思い出そうと左上を見ていた視線がレンズに向けられ、
にこりと細められる。

「それはね……」
「私たちがオールラウンドかつ高水準の結果を出せる冒険者だったから」

「冒険者が得意な分野を選んで引き受けるって言ったでしょう?」
「探しもの、調査、採取、護衛、人里に出るようになったモンスターの討伐」
「なにかの拍子に知らない洞窟が出てきたら
 内部を調べる……のは他の世界の冒険者らしいかしら?」

指を曲げたり伸ばしたりして数えていたが、このくらい?と手を止めて首をかしげる。

「あとは、そうね……これを視る人がどういう世界に生きているかわからないから、
 とりあえず自己紹介、というか、"そういう生き方があって、それで生きている"」
「それが伝われば、十分だと思うわ」

結構お話した気もするし、と少女は語るのを止めた。