
優希
「……そうだね。悪さ。…悪さか…。」
一つ、間をおいて。
…あの時のことが、また何かに引っ張られたように、頭の中に流れてくる。
私がした行動は…己の命を守る、という点では
正しかった。
けれども、研究員たちの間では、親を助けようとしないなんて、
お前は悪だと言った。
また、他のものは正しくも正しくなくもなかった、なんて言って。起こるべくして起こった、なんて、誰のせいにもしないで。
そんな浮いているような考えだって存在した。
…くだらないことを思い出してしまった、なんてため息をつきながら、わたしはまた脳内に浮かんだ答を伝えていく。

優希
「悪さ、というものは…人のエゴでしかない。時にはそれが正しく、また時には間違っている。それを全て悪いと称することは…人間にはできないさ。」
何せ、正しさ悪さなんて、人間の間での話でしかない。
それを動物に置き換えれば、それは途端に悪でも正でもなくなるものばかり。

優希
「だからただのエゴ、なんだ。…そもそも、誰かにとっての正義は誰かにとっての悪、なんて言葉がある以上、人の正しさの裏面に悪さというのは付きまとうものさ。」
…また、思い出す。…あの人は、何をしても誰かに反発を受けてきていた。それで感覚がおかしくなってしまっていたんだろう。
…私の、最後の願いの言葉すら、彼らには届かなかったのだから。

優希
「何にも、裏と表は存在しているからね。コインを思い浮かべてくれればいいかな。そのどちらを裏か表か…決まっていなかったとしよう。そうすると…決めるのは難しいだろう?ある人はこっちが表だと、ある人はそっちは裏だというように。…正義と悪も同じことだよ。」
理解できるかな、なんて笑って。しかし、彼は頭が切れるように見える。
こんな簡単な話を理解できないわけはないだろう。

優希
「だから、君の場合。君で言う正しさが、彼らにとっては悪だった…それだけの話だよ。」
だから、まあ…何も悪くはないんじゃないか。ただ…いうことを聞いたことなんかない私がいうのもなんだけれど、いい大人のいうことは聞いたほうがいいかもね、なんて笑って、私は次の問いかけに備えて深呼吸して。
さっきまでの思考で波立った感情を収めていくのだった。