ああ、終わってしまう。帰ってしまうらしい。帰れてしまうらしい。
そんな予感が頭の中を駆け巡った。
嬉しいはずなのに、嬉しくない自分がとても嫌になった。
胸の鈍痛は激しさを増し、息すらもままならないほどで
頭痛はもはや頭が割れてしまおうとしているほどに酷く
心は胸の鈍痛と共にこのまま張り裂けてなくなってしまいそうなほどに苦しくなっていて。
体調が良い悪いとか、そんなの分からないぐらいに、私の心や頭の中はめちゃくちゃになっていた。
しあわせって、なんなんだろう。

ひとみん
「……私は!!!!もっと3人で一緒にいたかったんだ!!!!」
最後に、記録の外側で、心のうちを全てこれに乗せてぶちまけるように、叫ぶ。いっそ喉なんか潰れて仕舞えばいい、なんていうぐらい、全身に力を込めて、叫んだ。

ひとみん
「馬鹿野郎おおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!」
私には、死というものが、人一倍背負うには重く感じてしまう。
過去に1人、不慮の事故とは言え、私の手で殺してしまったことがあるから。
今、正規の仕事ができていないのもそのせいだ。
それから、命のやり取りには気を遣ってきたつもりだ。
自分のこと以外は。
自分をもう少し大事にしてほしいなんて、2人から怒られたこともあったっけ。

ひとみん
「許さない!!!!許してやらない!!!!先に行ったこと!!!!ずっとずっと引きずりまくってやる!!!!絶対にお前のことなんか!!!!忘れてやらないから!!!!」
今じゃ、2人の方が人のこと言えないじゃないかなんて、笑って言えたらよかった。
そんな2人と過ごした時間が、走馬灯みたいに頭の中を駆け抜けていく。
私には小さな幸せがそのまま続くことですら許されてはいけないのか。
私には大きすぎる幸せだったのだろうか。
だから、"多すぎる"なんて、神に、仏に、私の幸せは奪われてしまったのだろうか。
そんな質問とも自責とも取れる考えが頭の中に増えていく。
身体が、心が、滅茶苦茶になっていく。感覚すらなくなっていく。
心が、胸が、心臓が、軋んで。もっと、もっと叫ばせてくれと、そんな悲痛な訴えが聞こえる。
けれども、どうやら"あちら"は待ってくれないようで。

「毎日うざいぐらい思い出し続けてやるよ!!!!だから!!!!そっちいくまで!!!!!!!!テメェは黙って指咥えてそっから見とけアホおぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!」
最後まで力を振り絞って、できるだけ遠くに、遠くに届くように、力の限り、叫んだ。
こんな、夢の中の声が、届くわけもないのに。届くことを期待している私がいるのが、本当に嫌いだ。
本当は、なんで逝ってしまったか、わかっているんだ。
私がこんなに怒りに任せて叫んでも、2度とあなたは答えてはくれない。
そもそも、こんなに怒ることすら間違っているのは、わかりきっていた。
わかりきっているから、余計に辛くなるんだ。
意識が、目の前の景色が遠くなる。
オブザーバーの顔が歪んでいく。
上下が、左右がわからなくなっていく。
この空間が、涙で滲んでいるのか、はたまた、幻覚が溶けるように覚めて行っているのか、私にはわからなかった。
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ひとみん
「はっ、…」
ここは、いつもと変わらない、自分の部屋。
…外はもう明るかった。

ひとみん
「…しまっ、……」
寝過ごしたな。なんて思う。まだ、身体がふわふわした感覚がある。
…今まで見ていたものが夢だと理解するのに、そうそう時間はかからなかった。
さっきまで見ていた夢の内容を思い返してみる。
思い出話をしている時は、楽しくて、暖かくて。けれども、気づいてしまってからは苦しくて、辛くて。
…でも、3人でひとつのような、唯一の関係だったということに再び気付かされた私は、2人とそんな関係だったという事実に、少しの優越感や安心感があった。
…なんだか、とても今更感のある自分が嫌になる。
当たり前は当たり前じゃないだなんて、わかっていたはずだったのに、わかっていなかった。
もっと早くに気づけていたはずだ。
そうだったなら、もしかしたら今頃…
…いや、終わりのない話はやめにしよう。
やることが山積みなのだから、こんなことは考えている暇なんてない。
起きあがろうとして、今日も酷い頭痛に怯んで、またベッドの上に逆戻り。
…いけない。起きなくちゃ。

「………ふぅ…さて…、…朝ごはん、作らないとな…それから…見舞いにもいかない…と…。…先方にも連絡…しなきゃ………」
………………目が乾く。眼痛や頭痛なんかもする。
そうやって、昨晩から泣き腫らしていた目を擦りながら、重い体を無理やり起こして。
この気持ちを、酷いことになった私を、誰にも悟らせないように。私は毎日、ひっそりと朝の支度を始める。
そうして支度なんかが終われば、足元にある缶を蹴飛ばして。…今日もまた1日が始まってしまったと、静かになってしまった家で1人、嘆くのだ。