Chapter01-04

記録者: 新庄 瞳 (ENo. 201)
Version: 1 | 確定日時: 2025-12-07 04:00:00

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「では観察対象。それを踏まえて、次の問いです」


シャッターは下りないまま、
ただピントを合わせるようなジジ、という小さな音だけが聴こえてくる。

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「あなたの価値観を測ります。
 ──あなたにとって譲れないものは何ですか?
 自由でしょうか、信頼でしょうか、愛情でしょうか、それとも秩序でしょうか 」

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「その理由も含めて説明してください。
 対象や状況が変わった時、
 あなたの答えはどのように変化するでしょうか?」


──あなたは自らの価値観をどのように認識していますか?

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「譲れないもの、とひとえに考えても即座に思いつかぬ場合もあるでしょう。
 自由、信頼、愛情、秩序、誇り、忠誠、知識……無数の選択肢が考えられます。」


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「当機は観測を第一義として設計されています、
 どのような思考をせど、必ず『観測』という目的を前提に持ちます。

 これは精神的価値としての『誇り』や『忠誠』とは異なります。
 しかし、機能としての観測が揺るぎ得ない前提であるという点では、
 それらに類する不変性を持つと言えるでしょう」


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「思考の前提、当然と感じている事、
 それこそ、先の思考を組み立てる際に自らが重視したものを改めて噛み砕くと良いのやも知れません」


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「回答は単一である必要はありません。
 譲れない価値の間で揺れる感情や葛藤も、重要な要素です。
 必要に応じて検討を続けてください」

Answer
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ひとみん
「当然、まず金だな!金がなきゃ生きていけんだろう?で…それと、仲間もそうだ。と言うか、今じゃもう金以上に大事だな!いなけりゃ当然、なあんにも始まんないぐらいにはな。」

モヤが晴れたようで、見違えるほど元気になった私は、ウキウキで思い出話なんかを交えつつ、次に投げかけられた質問に答えていた。

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ひとみん
「……金なんかなくても、さ。あいつらさえいりゃいいんだ、あたしは…」

けれども、今回の問いの答えを口にしたその時、一瞬の何かに反応したかのように、胸の奥に鈍痛が走った。

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ひとみん
「いた…っ?」

細い針がチクリと刺さったような痛みだった。けれども私は、こんな小さな痛み、気のせいだろう。なんて特に気にも留めないで、そのまま流れるように話を進めた。

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ひとみん
「つーか、ひどいんだぞ!あいつら、今日こそは家事やる!とか言いながらほっぽって仲良くゲームとかしてやがるんだ…」

2人に対する文句、と言う名前の惚気だったり。

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ひとみん
「ま、普段からあたしが全部やってっから、いいんだけどな。」

自分がいなきゃダメだな〜なんて、愚痴に見えた自慢のような話だったり。

他にも、こういうサービスをすれば、客の羽振りがいい、なんて話から、
あいつら、こんなバカまでやるんだぜ、なんていう思い出話まで。心の中にあった、話したいこと、楽しかったこと、たくさん、たくさん話した。

…次の話をした時だった。

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ひとみん
「でさあ、そいつ、ほんとにちょっとの酒なのにべろべろに酔っ払っちまったんだよ!もうふわふわになっちゃってさ、めっちゃ可愛いかったんだぞ〜。」

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ひとみん
「それでさあ、それ見てあいつが言うんだよ。酒を浴びながらさ…"俺こんな幸せならさぁ!もう死んでもいいかも〜、なんつって!"なんてさ、笑ってやがって…」


その時。また胸の奥が反応した。今度は、さっきよりも激しく。


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ひとみん
「ッ、?!…………痛…、…なに…?」

今度は、その針で傷口を裂かれたような。そんな痛みが走る。
…胸の奥がズキズキと言っている。…なんでだろう。何に反応したかもわからない。
私はただ、2人との思い出話をしていただけだ。

だって、2人と過ごした時間は、毎日がキラキラと色付いていて。何をするにも、彼らがいるだけでなんでもできるような。そんな気がしていたぐらいに、楽しくて。たくさん、2人からいろんなエネルギーがもらえるような気がして。
そんな話は、聞いてくれる人がいるなら…どうしてもしたくなるじゃないか。

そう。…きっとこんな、話したくなるような日常が、これからも、この先も、ずっと…ずっと続くんだと…

思っていた…思っていたんだ。


……薄々わかっていたんだ。



そう…夢に見ていたことは、現実には起こらなかった。

現実になることが、難しかったらしい。

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ひとみん
「!!」

胸の鈍痛がひどくなる。
思考が、現実に引き戻されていく。

…ぁあ

そう…そうなんだよね。


激しく暴れ始めた、心の奥底にしまってあったもの。

わざわざ開かないように押し付けて、閉じていた蓋が、外れて中身が一気に飛び出してきたみたいな。

あぁ…
嫌だ。

現実を知るのが辛い。
目の前のものをみるのが…怖い。

想像以上にそれはショッキングで、頭の中が真っ白になるようだった。

でも…だからこそ・・・・・、私は家に、帰らなきゃならないんだ。

…そう。本当はずっとわかっていたんだ。



現実で何が起こってしまったか、を。
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