
ひとみん
「当然、まず金だな!金がなきゃ生きていけんだろう?で…それと、仲間もそうだ。と言うか、今じゃもう金以上に大事だな!いなけりゃ当然、なあんにも始まんないぐらいにはな。」
モヤが晴れたようで、見違えるほど元気になった私は、ウキウキで思い出話なんかを交えつつ、次に投げかけられた質問に答えていた。

ひとみん
「……金なんかなくても、さ。あいつらさえいりゃいいんだ、あたしは…」
けれども、今回の問いの答えを口にしたその時、一瞬の何かに反応したかのように、胸の奥に鈍痛が走った。

ひとみん
「いた…っ?」
細い針がチクリと刺さったような痛みだった。けれども私は、こんな小さな痛み、気のせいだろう。なんて特に気にも留めないで、そのまま流れるように話を進めた。

ひとみん
「つーか、ひどいんだぞ!あいつら、今日こそは家事やる!とか言いながらほっぽって仲良くゲームとかしてやがるんだ…」
2人に対する文句、と言う名前の惚気だったり。

ひとみん
「ま、普段からあたしが全部やってっから、いいんだけどな。」
自分がいなきゃダメだな〜なんて、愚痴に見えた自慢のような話だったり。
他にも、こういうサービスをすれば、客の羽振りがいい、なんて話から、
あいつら、こんなバカまでやるんだぜ、なんていう思い出話まで。心の中にあった、話したいこと、楽しかったこと、たくさん、たくさん話した。
…次の話をした時だった。

ひとみん
「でさあ、そいつ、ほんとにちょっとの酒なのにべろべろに酔っ払っちまったんだよ!もうふわふわになっちゃってさ、めっちゃ可愛いかったんだぞ〜。」

ひとみん
「それでさあ、それ見てあいつが言うんだよ。酒を浴びながらさ…"俺こんな幸せならさぁ!もう死んでもいいかも〜、なんつって!"なんてさ、笑ってやがって…」
その時。また胸の奥が反応した。今度は、さっきよりも激しく。

ひとみん
「ッ、?!…………痛…、…なに…?」
今度は、その針で傷口を裂かれたような。そんな痛みが走る。
…胸の奥がズキズキと言っている。…なんでだろう。何に反応したかもわからない。
私はただ、2人との思い出話をしていただけだ。
だって、2人と過ごした時間は、毎日がキラキラと色付いていて。何をするにも、彼らがいるだけでなんでもできるような。そんな気がしていたぐらいに、楽しくて。たくさん、2人からいろんなエネルギーがもらえるような気がして。
そんな話は、聞いてくれる人がいるなら…どうしてもしたくなるじゃないか。
そう。…きっとこんな、話したくなるような日常が、これからも、この先も、ずっと…ずっと続くんだと…
思っていた…思っていたんだ。
……薄々わかっていたんだ。
そう…夢に見ていたことは、現実には起こらなかった。
現実になることが、難しかったらしい。

ひとみん
「!!」
胸の鈍痛がひどくなる。
思考が、現実に引き戻されていく。
…ぁあ
そう…そうなんだよね。
激しく暴れ始めた、心の奥底にしまってあったもの。
わざわざ開かないように押し付けて、閉じていた蓋が、外れて中身が一気に飛び出してきたみたいな。
あぁ…
嫌だ。
現実を知るのが辛い。
目の前のものをみるのが…怖い。
想像以上にそれはショッキングで、頭の中が真っ白になるようだった。
でも…
だからこそ、私は家に、帰らなきゃならないんだ。
…そう。本当はずっとわかっていたんだ。
現実で何が起こってしまったか、を。