
優希
「………………ッ、あれ…?」
嗅いだことのある空気の匂い。
耳に慣れた静かな空間。
見たことのある白。
そして、とてもデジャヴ感のある、椅子。
…多分、私は前に、ここにきたことがある。
なんけれども………前来たときの事が、イマイチ思い出せない。
ただ…カメラのような何かがあった気がする、それぐらい、ぼんやりとしていた。
ひとまず…私は、前もこの椅子に座った気がする。
曖昧な記憶に従って、椅子に着席する。
すると、見えたのは、前回とはまた違う…
とても色鮮やかな衣を纏った少年だ。
…そう、前回の相手は…そこそこガタイが良かった…気もする。
そんなことを考えたりしていると、目の前の少年は、軽快に、かつフレンドリーにこちらに向かってトイカケを投げ掛けてきた。
彼の自己紹介はなしだが…年齢が近いように見えるその風貌、そしてそのフレンドリーさに絆されているような自分がいて、少し笑ってしまう。
……とても単純だな。私って。
こう言う時に、まだ自分が"子供"であることを知らしめられる。
質問の内容は大人になるってどう言うことか、だが…君と同じ、子供の思う大人でよいのだろうか。
まあ、質問をくれたのだからいいのだろう。それならば…と、私は楽しげに口を開いた。

優希
「大人になる…か…。キミは、大人になることを…何かの繰り返しの、同じ道を歩むだけの死んだもの…だと言ったかな?そうやってキミは思っているようだけれど…私は違うと考えているよ。」
そう。私からみた、大人という存在。それは…

優希
「私の思う大人は…自分たちの思う、それぞれの"自由"を手に入れた存在だと思っている。」
研究に熱心すぎて、周りを見失うあの人だったり。
また、それに振り回されながら笑うあの人だったり。
そんな人たちと付き合いながらも、日々を真面目に取り組む人たちだったり。
たくさんの"大人“という像が、私の中にはあった。
そのすべての大人をひっくるめて、説明できる一言と言えば、自由という言葉しかないだろう。
そう。自由を手に入れた存在。私たち子供よりも、遥かに数多くの事が出来る。
………キミは、繰り返し続けると、その曲は死んでしまう…と言ったが、私にはそうは思えない。
まず、前提として、好きなものは繰り返したくなるものだと、私は思っている。
その好きなことを繰り返すことで、慣れればまた、新しい音の回しや、曲のアレンジだって。
子供であれば、演奏に必死で、己の好きを見つけるどころではないだろう。そんなんじゃアレンジなんか夢のまた夢。
けれども、何度もいろんな音を演奏して、だんだん上手になって、大人になって。そうすれば演奏にも余裕が出てくるし、やろうと思えば、幅なんていくらでも広げられるだろう。
例えば、ちょっと転調させてみたり。突然テンポを変えてみたり。
たまには、いつもと違う音を出してみたり。そんなところだって、なろうと、成そうと思えば、いくらでも自由自在だろう。
まあ、尤も…私の周りの大人は、その音色が自由すぎて、周りに迷惑をかけるような人たちばかりだったのだけれど。
…まあ、更に言えば…私はその迷惑を、私は今被っている、というわけなのだけれど…それはまた別のお話だから…
今はしまっておこう。

優希
「私は…色んなことに縛られる子供よりも、自由な大人でありたいんだ。」
正直、子供から見た大人なんて、せいぜい君のようなイメージか、私のようなイメージの両極端だろう。
多分、やろうと思ってもできないことだってたくさんあるし、やりたくても何かが邪魔をしてできないこともあるのかもしれない。けれども、今ぐらいは、と、私は、私の中の"理想だった人達"でできた大人像、というものを語っていた。
多分…いいや、わかっている、大人が、君がいうように、私が思っているほど自由ではないことも。あれほど自由な大人は…多分、生活をしようと思っている大人の中では一握りぐらいしかいないのではないだろうか。

優希
「まあ、色々思うところはあるんだけれど…今のところはこんな感じかな。」
ひとまず、止まらなくなりそうだったし、と、私は一旦答を切り上げた。