
「……ふむ、今回と以前とでは来るまでの行動に
類似点が少ないな。
それに今回はあの機械人形くんが相手ではない、と。」
「彼も自ら選んでやってきたわけではなかったようだし……」
この白い部屋に男は二度目の来訪だった。
じっと現れた質問者の方を観察している。
少年からの言葉にすぐ返答することはなく、
ブツブツとこの部屋について何やら言葉を呟いていた。

「ああ、いや、すまない……質問に答えればいいのだろう?」

「しかし大人は死んだ曲を流している者たち、か。
実に子供らしい視点なのだよ。」
考えることよりも質問に回答することを選んだらしい男は、
少年のことを軽く鼻で笑った。
どうやら彼はそれが大人だとは思わないらしい。

「子供の目から見れば大人は退屈そうには見えるのだろうな。
四六時中遊んではいられないし、守るべきものが多い。」
「まともであれば自然と常識などを身につけるが故に、
挑戦しないという選択をとることも可能になるだろう。」

「それらを君らのような者から見れば退屈、なんだろうな。」
子供の無邪気な質問を、
彼はどこか呆れたような調子で回答していく。

「だが、それは君が物事を知らんからそう思うだけだ。
大人は退屈だと?馬鹿を言え、楽しいことばかりだぞ。」
ニヤリと男は笑う。
それは大人らしい笑みというよりは、
悪戯を仕掛けたばかりの子供のような笑みだった。
けれどもそんな顔をしたまま彼は大人は楽しいものだと言う。

「子供と大人では得られるものできることも違う。
君は知らないのかね、君はまだ幼いからねと
諭すような言葉で遠ざけられるもどかしさを。」

「子供の語る夢物語と、大人の語る夢物語。
一体どちらが何も知らないのねと
笑って流され終わってしまう話なのだろうな。」

「君は何も知らんからそんなことを言ってるんだ、と
今まさに僕に言われていて腹が立たないとでも?」
くすくすと意地悪な大人は無邪気な子供に向けて笑う。
彼自身このような経験があったのだろう。
彼にもまた無邪気な子供だった時代がある筈なのだから。

「子供であれば自由に好き勝手生きられるわけではない。
君たちは君たちが知らない枠の中で
生かされているにすぎないのだよ。」

「そも、人生を退屈にするか否かは
そいつの生き方次第によるものだ。大人が総じて
退屈で死んだ音ばかり奏でているものだとは限らない。」

「こちらの世界にも楽しいものはたくさんあるぞ、少年。」
早く大人になれればいいな、というように
意地悪な大人は目を細める。

「……と、前置きはここまでにして簡潔に
僕の思う大人というものについて語ろうか。」
そういうと彼は軽く両手を合わせた。
ここから先は無邪気な子供と意地悪な大人の対話ではなく、
質問者と回答者による問答の時間である。

「僕は第一に他者を慮れる者が大人だと思う。
これは子供にはほぼ存在しない感覚だ。」

「自分はこうしたいが他者はどうだろう?
この人はこれが嫌いだった筈だからやめておこう。
そのようなことを自身で考えて行動できた方が良い。」

「自己中心的な考え方だけでは社会で生きていけないだろう。
他者を常に尊重し続けろとまでは言わんが、ある程度
人間の社会は集団によるものであるという意識を持たねば。」
誰もが赤子のように自身の快、不快で泣き喚いていては
人間の社会は成り立たなくなってしまうだろう。
自分自身の意見を言うことは大切であり、それも尊重すべきものだが
それは他人の意見を軒並み踏み倒して通すべきものでもない。
一人一人が他人の存在を認識して考え、行動することで
社会という集団によるものは動いていく。

「第二に自身の行動の責任を取れる者の事を大人だと思う。
己の犯した過ちを他者に支払わせる事が許されるのは
子供のみだ。」

「例えば子供が窓ガラスを割った際に弁償をするのは誰だ?
大抵その子供の保護者にあたる者たちだろう。」
「危険だと書いてある地域に侵入して怪我した際に
危険だと言ってもらえなかったと喚く奴が大人に見えるか?」
「自分ではこの道を歩いていって良いかわからないから
ねえ君決めてくれない?なんて言う奴は一体どちらだと思う。」

「子供だろうが大人だろうが行動に責任が伴うのは変わらん。
しかし子供は自身でそれを判別できないが故に親などから
やってはいけない事として教わり注意するのだよ。」
「対して大人は自身で判別する、するべきだ。」
行動には責任が伴っている。
自身の行動や選択によって生じたものを他者に負わせる、
または行動や選択自体を他者に任せることは大人らしいものだとは
思わないと彼は首を横に振った。

「他者を慮るが故に歩みが遅くなり、
自身の行動に責任が伴うが故に慎重に動くようになる。
子供から見ればこれらは遅く退屈な歩みなのだろう。」

「だが、あらゆる知識や責任を得て、
枠の中ではなく枠を作る側の方に回った時……」
「君の世界はより広いものへと変わるだろう。」
今はまだ少年の目に大人たちは退屈そうに映るかもしれない。
少年の耳には死んでしまった曲が聞こえてくるのかもしれない。

「……ま、僕の言葉を忘れずに生きれば
いずれ君もわかることだがね。」
でも大人になったらきっとわかるよ。
意地悪な大人は片目を瞑って少年に微笑んだ。