Chapter01-03

記録者: マリネッタ (ENo. 75)
Version: 1 | 確定日時: 2025-12-03 04:00:00

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  ──カシャ


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「記録しました。有難う御座います」

言葉と共にシャッターが下りる。
たとい先のあなたの言葉がどのようなモノであったとしても、
コレは変わらずこの言葉を吐いたのだろう。
どれだけ荒唐無稽な事を言おうと、無関係な事を言おうと、
静かで落ち着いた声は、波打つ事が無い。

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「観察対象、次の情報を取得します」

冷たいガラスのひとみが、あなたに次のトイカケを差し出した。

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「──次は簡単な思考実験を行います。
 あなたの目の前に一人の人物がいるとしましょう

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彼は明らかに困難な状況にあり、助けを求めています。
 しかし、助けるとあなた自身に損害が生じます


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──あなたはどう行動しますか?
 理由や、其れに至る思考回路を開示してください」


──あなたはこの仮定にどう回答をしますか?

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「当機には質問と観測以外の権限を持ち得ません。
 従って、この人物を助けることは不可能です」


何とも思考実験のし甲斐の無い回答ではある。
流石に此れでは回答例として参考にならないと思考したか、
継ぎ足す様に次の言葉が繰り出される。

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「この問いを考えるにあたって、あなたは複数の要素を考慮する事になるでしょう
 自らの能力、損得勘定、社会倫理、共感性、恐怖心、
 過去の経験、未来への予測、その他不確定要素……
 どの要素に重きを置き、判断するかを考えると良いでしょう」


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「思考の順序、葛藤、迷い──それらも重要な要素です。
 『まず相手の安全、次に自己の損害への憂慮・保身行為、最後に社会的評価』等の様に、
 優先順位及び時間軸での解釈の変遷は実に多様性に富むものでしょう」

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「また、其の人物が『何者であるか』も重要です。
 幼子であるのか、年長者であるのか、あるいは敵対する者か、見知らぬ存在か、親しい者か──
 立場や関係性によって、きっとあなたの判断基準は変化します。

 それらの場合でもまた、此の状況を考えてみてください」



Answer
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「……はあ」

あと何回このシャッター音を聞くことになるんだろうか。
あと何回ため息を吐く羽目になるんだろうか。

次と聞けばまたわざとらしく、不機嫌を表すように目を細める。
それでも姿勢は正しく。俯く動作さえ整っていて美しく。

カメラ頭のレンズへ再び視線を戻せば、なぞかけめいた質問が続く。

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「……」

具体性のある問いばかりではないのか。内容に対し、これまた露骨に嫌そうな顔をした。

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「趣味の悪い質問。
 アナタが例に出した通り、不確定要素が多すぎるでしょ。
 偶然の事故なのか、重大な事件なのか、ちょっとしたトラブルなのかどうかもわからない。
 あやふやな仮定から、何をどう答えろって言うの」

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「私なら、全てその道のプロに任せる。
 下手に手を出して事が大きくなるくらいなら、更に最適な人間に助けを求めた方がいい。
 主人公でもあるまいし、手を差し伸べればなんでもかんでも救えると思っている方が滑稽」

自分はどこまでも無能でか弱いことを知っている。
そうでなければ、今頃こうはなっていなかったはずだから。
他人を助けるなどという傲慢を遂行できるような存在ではない。
自分にできるのは、ただ踊ることだけ。そう思っている。

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「逆を言うなら。
 私だけで事足りるという場合なら……まあ、手を貸すと思う。
 服が汚れたっていい。怪我だって、するならしょうがない。
 社会的地位が落ちるならそれもご勝手に。ただ、今より醜くなるのは嫌かな」

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「……今の私にできることって、なにかしらね」