Chapter02-05

記録者: シャルティオ (ENo. 14)
Version: 1 | 確定日時: 2025-12-03 04:00:00

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「ねえ──じゃあさ」

ぱちん。
少年が指を鳴らす。
軽快なくせに、不思議と胸の奥をざらつかせる音がした。

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「“正しい”があるなら……“悪い”って、なんだと思う?

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「君の思う“悪さ”ってさ。どういう形をしてる?
 ……悪い人って、どうして悪い事をすると思う?」

その声は明るいのに、奥底に沈むものは冷たく澄んでいる。
冗談みたいな口ぶりなのに──その実、返答を逃す隙を与えないほど見つめていた。

──あなたは、何をもって“悪い”と判断しますか?


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「僕が新しい曲を吹こうとするとね、
 止めようとする人がいるんだ。すっごく真面目な顔してさ」

笛に指を当て、吹く真似をして。
けれども笛を通して音を出す事はしないで、
また手持ち無沙汰のように笛を手でいじる。

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「親も、偉そうな大人も、見回りの憲兵も、
 神様の言うことばっかり唱える聖職者もね。

 彼らはそれを“正しいこと”だって僕に言うんだよ。
 でもさ、僕の新しい音を止めるんだよ? それってさ──」

そうして。歌う様な声で嗤った。

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〝悪い〟ってことじゃない?

      ──だって僕の方が正しいのだから!

……少年はあなたを見ている。
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 鳴らされた音。
 その感覚に、少年は警戒の目を向ける。

 貴方から自由なる風の気配を感じたが。
 今、向けられているのは、痛みをもたらす刃のようだ。

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「………………」

 少年はその目を、真っ直ぐに見つめ返した。

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「“正しい”は人それぞれであるという話を、
 私は先程したね」

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「それは“悪い”も然りだ。
 私の思う“悪い”が、
 他の人に該当しないこともある」

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「それを踏まえて…………」

 思い返す。

 己は何を思って、この国を変えたいと考えたのか?
 変えたいものがあったから、
 何とかしたい“悪”があったから、改革を志した。
 それを辿れ。己の原点は────。

 檻に繋がれ利用された過去を思い出す。
 あの頃、己を傷付けた長兄は“悪”だったろう。
 何故、そのようなことをされたのか?
 この魔導王国の、魔法至上主義もその一因か。


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「私にとっての悪とは──差別、だ

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「嫌いな人間がいる、
 苦手な人間がいるのは仕方のないことだ。
 これだけ様々な“正義”があるんだ、
 思想の合わない人間もいるだろうさ」

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「合わないならば離れるか、
 表面上だけでも穏やかに過ごすか、
 或いは全力でぶつかるかすれば良い」
「他にも色々とやり方はあるだろう」

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「そんな風に自分から動くことをせず、
 波風立てない努力もせず、
 一方的に蔑み虐げてくる奴らは──
 卑怯だと、思わないか

 その差別を国単位でやっているのが魔導王国だ、
 と王は語るのだ。

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「だから私は法を敷いた。
 これまでそうやって差別される側であった
 非魔法民にも人権を認め、
 彼らを侵害した人間には
 身分関係なく罰を与えられる法を」

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「魔法が使えない彼らもまた人間だ。
 私は派手な属性魔法なんて使えない。
 それでも、私だって人間だ」

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「“普通”とは違う。それだけで──
 誰かを差別して良い理由には、ならない」

 青の瞳に、強い信念の炎が瞬く。

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「そして、何故彼らは
 そのようなことをするか?
 の問いだが…………」

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「そもそも魔導王国では、
 非魔法民への差別が
 常識としてまかり通っている。
 その“常識”を疑うのは簡単なことではない」

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「だから私は
 これまでの特権階級の人たちのことは、
 まだ、まだ、許せる」

 しかし、と王は続ける。

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「……今はもう、この私が、
 革命王が、『それはおかしい』と
 突き付けて改革を行っている。
 それを理解した上で尚、
 非魔法民差別を続けるのであれば……」

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「それは彼らの心が、
 “弱い”ということの証左だ」

 弱いからこそ、誰かを虐げずにはいられないのだろうと。
 王は、王は、語るのだ。

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「…………これが、
 私の考える“悪い”だ。
 お前への答えになったかな」