Chapter01-01

記録者: シスター (ENo. 40)
Version: 1 | 確定日時: 2025-12-03 04:00:00

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あなたがふと気が付けば、真っ白な部屋に居た。
そこには椅子がひとつ置いてあるだけで、他に何もない。

あなたがその椅子に、座ったとき
あなたは視界の“先”に、誰かがいることに気が付いた。
白い部屋のなか、白い椅子に誰かが、座っていた。


  ──カシャ


何かが擦れるような、もしくは閉じるような音。
その音は対面の椅子から聴こえてくる。

それは────人物と解釈は出来はするだろう。

腕が二本あり、脚が二本ある。
それなりに体格の良さそうな身体に──無機質な四角いかたちが、乗っている。
あなたにその知識があるならば、それはカメラのように見えるだろう。
艶やかなレンズがじっとあなたを見詰めるように据えられていた。


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「……」


……そうしてその状態のまま、暫く。
沈黙に耐えかねてか、将又訝しんでか、あなたが口を開こうとした時、
もしくは、十分すぎる時間が経った後に、声がする。

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「……あなたは私を観測可能ですか?」

男性的な声だ。決して被り物の様にくぐもった声はせず、妙に鮮明な音色。
どこか奇妙な言い回しの後、まるで咳払いをするように、
人であれば口元に当たるだろう所に軽く手を添えて、
それから改まって一つ礼をした。

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「先ほどは不躾に見つめてしまい申し訳ありません。
 状況を把握するため暫し観察を行っておりました」

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「当機は此の場所について説明をすることが不可能です。
 この部屋についての事前情報はインストールされておりません。
 再起動した時にはこの部屋に在りました」


……即ち、この者もまたこの部屋に居る理由を知らないという事だろう。
彼方もまた、この部屋に呼ばれた者の一人……ひとつであるようだ。
現状を確認するようにレンズを左右に向けたソレは、しまいには改まってあなたにレンズを向け直す。
ピントを合わせるようにレンズがくるりと回り、それから頷くように一つ頭を揺らした。

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「観察対象、まずはあなたという存在を記録するための
 初期照合を致します」

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「あなたの識別情報を教えてください。──名前、呼称、あるいはそう呼ばれる理由を」

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「あなたを“あなた”と定義する特徴を」




──あなたは得体の知れない観察者に、どのような自己紹介をしますか?


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「──失礼致しました。まずは当機から情報を開示すべきでしたね」

きゅり、とレンズがまた周り、一拍の間。
まくしたてる事は不信感や警戒を生む事を
判っているからこその故意の間であった。

──あなたは回答せずとも良いのだろう。
コレはあなたを観察対象と認めたようだが、
観察される事を万人が受け入れる訳も無いのだから。



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「当機はAster Visual Automataシリーズのβライン第9号機。
 即ちAVA-β09、通称Observerオブザーバーと申します。」

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「Asterismは情報観測機器を製造する企業ですが、
 中でもAVAシリーズは主に長期観測任務に使用される自律稼働式人形です。
 当機はその中の一つで御座います」


そこまで説明をして、あなたの顔を窺う。
どうも中々ピントが合わない様子で、暫くレンズを回した後。
考えているかのようにまた手をレンズの傍に沿えていた。
して、数拍。

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「…………。」

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「即ち、オートマタと呼ばれる機械式人形のひとつで御座います。
 その中でも、観察・観測を目的として製造されたものです。以後何卒お聞き見知り」


説明が難しかったろうと解釈したらしい。
其処まで告げ、改めて頭部を深々と下げた。──さて、あなたの番だ。
Answer
白、白、白。
その空間は、周りも、天井も、床に到るまで白く。
登場人物も物語も存在しない、白紙の様であった、が。
筆先が下り、キャンバスに真っ黒な絵の具を一滴、落としたように。
聖職者らしき黒服を纏った、小柄な女が一人現れる。

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「雲の中にでも閉じ込められたかしら」

然様な、夢心地の独り言。
小柄な少女らしい言葉、常日頃から紡いでいるのだろう。
そうして女は、白塗りの世界で唯一輪郭を保っている椅子に腰掛けた。

やがて、姿を現すは箱頭のヒト型。
単眼が女を映し、馴染みの無い音を響かせた。
はて何の音だろうなと考えを巡らせるも、答えが出る筈も無く。
思考と呼ばれる沈黙、相手が耐えかねたか、箱頭が語り始める。

ああ、一応は男性なのだな。
あのレンズの付いた頭は被り物でないのだな。
小難しい言葉を口にしているが、悪魔の使いか何かか。

女は箱頭の話を聞きながら、再び声無き独り言を始める。
そうして、彼が挨拶を終えた頃、漸く口を開いた。

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「機械式人形」「ゴーレムみたいなものかしら」
「意志を持って喋るなんて、珍しいわね」

椅子から下がる女の足は床に届かず、ぷらぷらと交互に揺らされ。
眼前に現れた非現実に心躍らされているように楽し気な様。
その言葉は、思わず考えが口に出たに過ぎず。

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「ごきげんよう、モノクルがお似合いな箱頭の貴方。
 私はソムニ。大いなる暗夜の『夢』を想う、一人の信仰者」

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「ただのユーウェ……小さな人間の姿をした者とでも想って。
 最近招かれるのよね、こういう知らない場所に。
 我らが大いなる暗夜のお導きかしら」

くすくすと笑いながら、ソムニと名乗った女が漸く喋る。

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「我らが『夢』を見る行為は、時に異世界を覗けるのだけれど」
「こうして肉体を持ったまま移れる機会ってあまり無いのよね」

改めて、相変わらず真っ白な空間を見回して。

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「今しばらく、こうして夢を見させて頂こうかしら。
 よろしくお願いするわね、オブザーバーさん」
「どうせ戻った所で水汲みさせられるし」

誰の物語でも無い夢の中。
何者かとの語らいに興じるのだろう。