Chapter01-05

記録者: アラビク・ハン (ENo. 167)
Version: 1 | 確定日時: 2025-12-03 04:00:00

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  ──カシャ


シャッターの音の後、あなたを向いていたレンズがふと向きを変える。
何か未知のことを認識した様子で、その後にまたあなたにひとみが向いた。

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「観察対象、最終質問を提示します」


この対話の終端が近いようだ。
不思議な白い部屋での対話は、何の説明もなく始まり、そして終わるらしい。

奇妙な観察者は感慨もなく告げ、一拍。

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──あなたは、何をもって“自らの存在に価値がある”と判断しますか?


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「それは役割でも、使命でも、功績でも構いません。
 また、価値は不要であるとする見解も有益な観測結果となります。

 あなた自身が、どの基準で己を“肯定”し、
 何をもって“無価値”とせずにいられるのか。

 その価値に他者を如何にして組み込んでいるのか、
 その内的構造を、開示してください」


──あなたは自らに〝どのような価値〟があると認識していますか?

 
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「当機は、あなたの答えを推論する事はできても──
 代弁する事はできません
 故に此度は、 あなた自身の言葉で語られることを要求します」
Answer
カシャ、と記録の音。
はてさて、閲覧者にはご満足いただけたかね、どうだろうかね。
あのしぐさを見るかぎり、先方―自称Observer―の方には
質問を作成した相手がいるようにも見受けられるが。
観察を続けていると、“最終質問”が提示された。
それは、自らの価値をどう定めるか、というもの。

なるほどね、とマフラーの下で口の端を吊り上げる。
これまで何人の“観察対象”にその質問を投げかけてきたのか。
その質問をするということは、ああ、なるほど。
お前・・自分の価値がわからないんじゃないか・・・・・・・・・・・・・・・・・

軽くため息をひとつついて、商人は口を開く。
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「ぼくは自分自身に価値があるとは思っていませんよ?
 あなたの言葉でいうなら無価値である、と、そう考えていると言ってもいい」

ですが、と言葉を続ける。

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「――ですが。
 無価値である自分を、ぼくは肯定しています。
 自分で自分を無価値であると考え、決められる自分をよしとしています」


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「なにせぼくは商人、ですからね。
 値段をつけるのは得意なんですよ」

そう言い放ち、色眼鏡の下で、愉快そうに笑う。

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「――以上の内容でご満足いただけるでしょうか?」

そんなわけはないだろうな、と考える。
 きっと、同じような言葉を投げかけた者はこれまでにも大勢いただろう。
 そのうえで、おそらくこの質問は延々と繰り返されている。
 それがなにを意味するかは……まあ、ぼくの知ったこっちゃないさ。
 悪いが、あんたが目の前で困っているのだとしても、助けてやる気にゃなれないね。