Chapter01-03

記録者: アラビク・ハン (ENo. 167)
Version: 1 | 確定日時: 2025-12-03 04:00:00

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  ──カシャ


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「記録しました。有難う御座います」

言葉と共にシャッターが下りる。
たとい先のあなたの言葉がどのようなモノであったとしても、
コレは変わらずこの言葉を吐いたのだろう。
どれだけ荒唐無稽な事を言おうと、無関係な事を言おうと、
静かで落ち着いた声は、波打つ事が無い。

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「観察対象、次の情報を取得します」

冷たいガラスのひとみが、あなたに次のトイカケを差し出した。

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「──次は簡単な思考実験を行います。
 あなたの目の前に一人の人物がいるとしましょう

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彼は明らかに困難な状況にあり、助けを求めています。
 しかし、助けるとあなた自身に損害が生じます


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──あなたはどう行動しますか?
 理由や、其れに至る思考回路を開示してください」


──あなたはこの仮定にどう回答をしますか?

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「当機には質問と観測以外の権限を持ち得ません。
 従って、この人物を助けることは不可能です」


何とも思考実験のし甲斐の無い回答ではある。
流石に此れでは回答例として参考にならないと思考したか、
継ぎ足す様に次の言葉が繰り出される。

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「この問いを考えるにあたって、あなたは複数の要素を考慮する事になるでしょう
 自らの能力、損得勘定、社会倫理、共感性、恐怖心、
 過去の経験、未来への予測、その他不確定要素……
 どの要素に重きを置き、判断するかを考えると良いでしょう」


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「思考の順序、葛藤、迷い──それらも重要な要素です。
 『まず相手の安全、次に自己の損害への憂慮・保身行為、最後に社会的評価』等の様に、
 優先順位及び時間軸での解釈の変遷は実に多様性に富むものでしょう」

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「また、其の人物が『何者であるか』も重要です。
 幼子であるのか、年長者であるのか、あるいは敵対する者か、見知らぬ存在か、親しい者か──
 立場や関係性によって、きっとあなたの判断基準は変化します。

 それらの場合でもまた、此の状況を考えてみてください」



Answer
カシャ、とシャッターが切られる音がした。
記録しました、ときたか。
記録であれば、閲覧する者がいるはずだ。
やはりいいかげんな回答はするべきではないな、と居住まいを正し、次の質問を待つ。
世界について聞かれたあとは共同体なりについてかな、と考えたが、どうやら的外れだったようだ。
投げかけられた質問の内容は、“簡単な思考実験”。
窮地に陥っている目の前の人物に対してどう行動するか。さて、どう回答したものか――

――これはあれだな。聞いたことがあるぞ、と内心独りごちる。
“あいつ”が旅に出る前、夢でなんやかや聞かれたと言っていた。
なんでもえらく無遠慮な質問ばかりされ、
あげくの果てにあなたはどういう性格ですねと決めつけられたとか。

じゃあなにか、ぼくもこれから世界を救う旅に出るのか?と考え、
アホらし、とその思考を放棄した。
世界ならとっくに一度救った、二度めはごめんだ面倒くさい。
だいたいいまは他にやることがある。
世界なんぞ知ったこっちゃない、救って……いや、どやしつけてやりたい子がいるんだから。


――まあ、別にそう難しい質問じゃない。
こういう話なら冒険仲間、商人仲間と何度もした。
とくにひねらずそのまま答えるとしよう。

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「そうですね、基本的には助ける方向で行動しますが。
 その前にまず観察します

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「最初は――その彼が、本当に困難な状況にあるのか。
 それはこちらをだますためのフリではないのか?」

なにせぼくは商人ですからね、価値のある財を持ち運んでいます。
それを狙うものはいくらでもいます、用心するに越したことはありません、と補足する。

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「次に考えるのは、僕が被る損害の程度ですね。
 被る損害が回復不能なものだと予想されるのなら、申し訳ないですが助けません。
 そこまでする義理はない、というやつです」

損得度外視で助けたくなる相手もいなくはないでしょうが、
今回は一般ケース、見ず知らずの相手という前提で話を進めます。

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「まあ、なんやかや判断基準はありますが。
 要するに、基本的には助ける方向で行動する。
 でも、自分や仲間が危険なら助けない、ことを進言する・・・・
 こうですね」

ま、どうせ結局助けることになるし、面倒事を背負い込むことになるんだろうけど。
それを言うのが僕の役割だったのさ、と心の中で肩をすくめるでしょう。


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「以上の内容でご満足いただけるでしょうか?」