Chapter01-02

記録者: 新庄 瞳 (ENo. 201)
Version: 1 | 確定日時: 2025-12-03 04:00:00

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「……」

あなたの回答を──若しくは無回答を聞き、
ソレは少しじっとあなたを見詰めていた。


  ──カシャ


それから、また先にあった音が一つ。
撮ったものを確認するような間の後、深々と頭が下がった。

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「観測結果が不明瞭です。
 当機からはあなたの言葉を完全に受け取る事は難しいようです」

どうも椅子の〝こちら側〟と〝あちら側〟では具合が違うようだ。
あなたの言を確実に受け取れているかは、あちらもこちらも分かり得ないだろう。

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「では観察対象、続けましょう」


されどコレにとっては断片でも構わないのか、きゅり、とまたレンズがあなたを向く。


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「環境データの取得。あなたの属する世界を説明してください」

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「あなたの世界では、“普通”とはどのような状態を指しますか?」


──あなたは、異世界の存在にあなたの世界のどのように説明しますか?


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「当機の世界にはこれと言って特徴があるとは考えられません」

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「当機は異世界に対する情報を持ちません。
 よって、何が特色であるかを判断するには情報が不足しています」

──基準や比較対象が無ければ、世界の比較とは難しいものだろう。
自らの世界に当たり前に存在しているものが、他の世界では存在しない可能性すらある。
自らの視野では存在しないものが、世界の中には存在している可能性だってある。

つまりは、この質問は不毛なものではある。
……比較対象が無い限りは。


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「──あなたに回答していただくためには、
 当機の世界を説明せねばなりません。
 よって当機は、平均的な一般家庭の生活環境についてご説明致します」


もしあなたが回答に窮しているのであれば、
オブザーバーの言うものを参考に、比較して述べると良いのだろう。

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「朝9時に出社する方は、平均して朝7:22に起床致します。
 家事仕事用の自立稼働人形が6時には稼働を開始しており、
 起床し着衣を着替えた後には朝食を摂取する事が可能となります。
 起床から出勤までには平均28分31秒の時間が経過しています」

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「出勤には電車やバス──公共の車両を利用する方、
 運搬用人形を利用する方ほか、徒歩で出勤する方など様々です」

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「……コンプライアンスに基づき、出勤後については
 当機から申し上げる事は出来かねます」


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「7日を一週間という単位にし、
 うちの4日が平日、うちの3日を休日と制定されております。
 居住する地は球体の惑星、衛星は現在1つ観測されております。
 衛星及び他の惑星の生活様式については当機のデータベースには御座いません」



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「……以上の内容は参考にする事は可能ですか?」



……とはいえ、此れをなぞらえる必要も無い。
あなたの自由に回答してよいだろう。

Answer
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ひとみん
はぁ????

まただ。なんで?や、そうか、それで…という考えとは裏腹に、また口をついて出たのがこれだ。

まあ…不明瞭ということは要するに、要所要所がボケて聞こえない、なんて感じなのだろう。
さっきピントがうまく合わせられないような動きをしていたのも、おそらくこれが原因だと推察する。

実にめんどくさい。

というか…、こっちから見えるオブザーバーは、不明瞭なんてことはないから……それってつまり……オブザーバーが壊れているんじゃないか……?
これって、つまりは、もしこいつが壊れていると仮定してみると…記録もちゃんと出来ているかどうかすらわからないということではないか。

大丈夫か…?

…こいつ、修理してもらった方がいいんじゃないか。
…というか、構造がその辺の機械と同じなら私も修理できるが。

なんだか色々考えが巡るが、それを掻き消すようにまた深呼吸を一つしたのち、口を開く。

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ひとみん
「………………フゥ………観測できないならここでやめてもいいんだぞ……」

立った気持ちを落ち着かせるべく、自分を宥めるように発した。
正直、向こうに伝わり切らないのであれば、これ以上話すのも…と思っていた。

だが、オブザーバーからは続けるという答が返ってきた。

いや、今すぐに修理してもらえよ、という言葉を飲み込んだが…、その状態で今、このまま続けて記録の意味があるのか…?
まあ…いいか、やることも特にないし…

…ふと、さっきはオブザーバーに気を取られてしまっていたが、また質問を聞きながら今度は周辺を見回してみる。

…特に変わった様子もない。真っ白な空間が続いているだけ。私はがっくりと肩を落とした。
……これじゃ帰れないじゃないか。

…帰る…?いや…別に私は帰れなくてもよくないか?だって、帰れなかったら借金も犯罪歴も全部全部チャラになるわけだし……?
…いやでも、心が帰らなきゃと叫んでいる。なんで?

………………頭が痛い。頭の中のモヤが濃くなってきた気がする。

私は……帰らなきゃいけない理由があった、そのはずなんだ………なのに……

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ひとみん
「………………〜〜〜〜〜ッ、………あ、すまない、え〜〜っと何だっけ、こっちでの普通…?だっけか。」

何もできない以上、今は目の前のことへ集中する方がいいだろうと私は判断した。
イライラが収まらない。一体これは何なんだ?

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ひとみん
「ん〜そうだな、私の世界での普通なら…、生まれたら親に世話をしてもらって、大きくなったら学校に行って、大人になるために勉強して、大人になったら育ててくれた親に恩を返すために働く…っていう生き方をするのが普通じゃないかと思うぞ」

かなりざっくり説明だが伝わるだろうか…?……いやまあ、正直思い出せないことに比べたらこの辺の普通の定義なんてどうだっていいのだけれど。

…親孝行といえば。私は親に、大変な迷惑をかけたことを思い出していた。
一生懸命片親で育ててくれたのに、私は最終的にはこんなになってしまった。

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ひとみん
「時間の流れとかは…こっちと同じみたいだな。働き方については人それぞれに普通があるから一概にこうとは言えないな。週休2日だったり、毎日働いたり。逆に週1で働いたり。仕事が入った日だけ働く…ってのは私の働き方だな。」

感じていた罪悪感を思い出して辛くなる。……けれど、なんだか、親へ迷惑をかけたなんてことを言いながら、ヘラヘラ笑っていた"誰か"が今、脳裏に一瞬チラついた気がする。
知り合いにそんなだらしないやつなんていなかったはずだけれど…?
けれども、ふと脳裏に過ったその瞬間、胸の奥が温かくなって、締め付けられたように感じた。

なんだ…なんなんだ…?思い出さなきゃいけない気がするのに、これ以上出てこない。
そのせいか、苛立ちの波はまた勢いを増す。……とっとと終わらせないとまたこいつに八つ当たりしちまう。
また一つ、深呼吸をして荒くなった感情の波を宥めつつ、オブザーバーに向かって睨みをきかせて私はこう伝えた。

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ひとみん
「……他に質問があるならとっととしてくれ、アタシはもう疲れた…」