Chapter01-01

記録者: 新庄 瞳 (ENo. 201)
Version: 1 | 確定日時: 2025-12-03 04:00:00

クリックで開閉
あなたがふと気が付けば、真っ白な部屋に居た。
そこには椅子がひとつ置いてあるだけで、他に何もない。

あなたがその椅子に、座ったとき
あなたは視界の“先”に、誰かがいることに気が付いた。
白い部屋のなか、白い椅子に誰かが、座っていた。


  ──カシャ


何かが擦れるような、もしくは閉じるような音。
その音は対面の椅子から聴こえてくる。

それは────人物と解釈は出来はするだろう。

腕が二本あり、脚が二本ある。
それなりに体格の良さそうな身体に──無機質な四角いかたちが、乗っている。
あなたにその知識があるならば、それはカメラのように見えるだろう。
艶やかなレンズがじっとあなたを見詰めるように据えられていた。


icon
「……」


……そうしてその状態のまま、暫く。
沈黙に耐えかねてか、将又訝しんでか、あなたが口を開こうとした時、
もしくは、十分すぎる時間が経った後に、声がする。

icon
「……あなたは私を観測可能ですか?」

男性的な声だ。決して被り物の様にくぐもった声はせず、妙に鮮明な音色。
どこか奇妙な言い回しの後、まるで咳払いをするように、
人であれば口元に当たるだろう所に軽く手を添えて、
それから改まって一つ礼をした。

icon
「先ほどは不躾に見つめてしまい申し訳ありません。
 状況を把握するため暫し観察を行っておりました」

icon
「当機は此の場所について説明をすることが不可能です。
 この部屋についての事前情報はインストールされておりません。
 再起動した時にはこの部屋に在りました」


……即ち、この者もまたこの部屋に居る理由を知らないという事だろう。
彼方もまた、この部屋に呼ばれた者の一人……ひとつであるようだ。
現状を確認するようにレンズを左右に向けたソレは、しまいには改まってあなたにレンズを向け直す。
ピントを合わせるようにレンズがくるりと回り、それから頷くように一つ頭を揺らした。

icon
「観察対象、まずはあなたという存在を記録するための
 初期照合を致します」

icon
「あなたの識別情報を教えてください。──名前、呼称、あるいはそう呼ばれる理由を」

icon
「あなたを“あなた”と定義する特徴を」




──あなたは得体の知れない観察者に、どのような自己紹介をしますか?


sample
icon
「──失礼致しました。まずは当機から情報を開示すべきでしたね」

きゅり、とレンズがまた周り、一拍の間。
まくしたてる事は不信感や警戒を生む事を
判っているからこその故意の間であった。

──あなたは回答せずとも良いのだろう。
コレはあなたを観察対象と認めたようだが、
観察される事を万人が受け入れる訳も無いのだから。



icon
「当機はAster Visual Automataシリーズのβライン第9号機。
 即ちAVA-β09、通称Observerオブザーバーと申します。」

icon
「Asterismは情報観測機器を製造する企業ですが、
 中でもAVAシリーズは主に長期観測任務に使用される自律稼働式人形です。
 当機はその中の一つで御座います」


そこまで説明をして、あなたの顔を窺う。
どうも中々ピントが合わない様子で、暫くレンズを回した後。
考えているかのようにまた手をレンズの傍に沿えていた。
して、数拍。

icon
「…………。」

icon
「即ち、オートマタと呼ばれる機械式人形のひとつで御座います。
 その中でも、観察・観測を目的として製造されたものです。以後何卒お聞き見知り」


説明が難しかったろうと解釈したらしい。
其処まで告げ、改めて頭部を深々と下げた。──さて、あなたの番だ。
Answer
icon
????
はぁ?

まず、ここはどこだ?や、お前は誰だ?という考えよりも先に、口をついて出た第一声がこれだった。

icon
????
黙れこのクソカスカメラ!!!!テメエレンズカチ割られたいのか?!

そもそも、ここがどこなのかわからない、だなんて突然言われても当然、すぐに受け入れられるはずもなく。
なんせ、私だって、ここがどこなのかわからないのだから。
こうして、パニックからの意味もないただの八つ当たりが彼を襲った。

それから、満足するまで一通り罵倒し終わって。
息を荒くしながら睨み合っている…というよりも、一方的に睨みつけていると、彼は謝罪と共に、突然自己紹介を始めた。

…やはり怪しまれているという自覚はあったらしい。一応、すごいやつだったらまずいので、黙って聞いてみる。

聞けば、彼は記録媒体を制作しているらしい会社で作られた、記録/観測を専門としている自立型のオートマタらしい。

9号機…番号がまだ若い。ということは、おそらくまだ様々な機能なんかを実装したりして試験運用なんかをしている最中なのだろう。
ピントもまだうまく合わせられないようだし。

それに、話し方が酷く機械的なのもおそらくまだ対話プログラムなんかが完成していないからなのだろう。…なんてことを考えていると、オブザーバーと名乗った彼が、自分の紹介を簡略化したらしいものの説明を始める。

icon
????
「バッカにしてんのかよ、そんなことすら分からねえほどアホじゃねえよアタシは…」

わかっていないとでも思ったのか?腹が立つ。けれども、対話プログラムなんかがまだ完全なものでない可能性があるおかげで、私はさっきのように怒鳴らずには済んだ。

はぁ、と大きなため息を一つ。なんだか、機械相手にこうして意味もなく苛立っているのがあまりにも馬鹿馬鹿しくて。一体私は何と戦っているんだろうなんて。

…?…その、腹が立っている原因が、今なぜかどうしても思い出せないことに気がついた。
こういうことには大抵大きな原因があるものだが…よくある空腹でも寝不足でもない。
なら…絶対に他に何か原因があるはずなのだが…思い出せない。

しばらく考え込んだ末、ようやく気がついた。
どうやら一つ、頭の中に大きなモヤがかかっているような感覚があって、そこのモヤが晴れないことへの苛立ちと焦りで、私はひどく落ち着かないでいるようだ。

なぜこんなに落ち着かないかと言えば、思い出せないそれが、酷く重要なことな気がするためだ。

icon
ひとみん
「………………ハァ…悪い、お前は何もしてないのに。……あたしは瞳。新庄瞳。ひとみん…って呼ばれてるかな」

とりあえず、オブザーバーへ、謝罪を送りつつ、こちらは名前だけを教えてみる。当然、本名ではない。当たり前だ。

私は過去に大きな、本当に大きな過ちを犯した。
その代償として、今は身も心も粉にして、必死で裏金稼いでるってわけ。なんだけれど…、…?
…何か…、何か他にもあったような気がする。…働く理由…みたいな…

……やっぱり、変なモヤがかかっているようで、何も思い出せない。
全くもってスッキリできない自分に、私はさらにひどく苛立ちを覚えていた。

icon
ひとみん
「ったく…。知らないとこにいるわなんか思い出せないわで、災難だなあたし…。」

ただ、自分の呼び名を口に出して思ったことがある。
誰かにこの呼び名を呼ばれる度、胸の中へ温かいコーヒーが注がれたような、そんな、温かくて、満たされたような気持ちになったことが、ふと頭の中と胸の奥に浮き出てきた。
確か…そんなだった気がする。

何が…何なんだっけ。思い出さなくちゃいけない気がする。
なのに…頭を捻っても出てくるのは一面灰色の景色だけ。

……おかしい。特になんともないはずなのに、思い出そうとすると頭が重くなる。
どんどん体調が悪くなっているような気がして、ひとまず私は考えるのをやめた。