シロは大きく欠伸をひとつ漏らした。
その声すら、白い空間に吸われていく。

「……うん。なんかちょっと、スッキリしてきたかもな」
変わらぬ体勢と手の仕草のまま、シロはふっと笑った。
その笑いは小さく、肩の力を抜いたような、けれどどこか柔らかい余韻を含んでいる。

「とかまー……うだうだ考えても、
結局変わらない毎日がまた続くんだけど、さ。
こうやって……無益かも知れなくても、考える事って、やめちゃ駄目かもなって思うんだ」
視線が遠くなる。
まぶたがゆっくりと落ちていく。

「あー……そろそろ目が覚める気がする。
じゃーね、クロ。またどっかで会えたらいーね」
その言葉を最後に、シロの輪郭は水面に落ちたインクのようににじみ、
白い部屋へ融けていった。
視界も、同じようにぼやけていく。
──静寂。
⸻
フェルヴァリオは薄れゆく世界の中で、静かに息を吐いた。

「……定義。“自分の存在の拠り所はどこか?”」
呟く声は、白に溶けていく。

「なんて、そんなもん……自分で決める」
自嘲気味に笑う。

「もしかしたら、彼女には拠り所なんて無かったのかもしれない」
肩をすくめた。

「……まあ、神様が知るところで、オレには関係ない部分だ」
言葉は淡々としているのに、胸の奥だけは微かにざわついたままだ。
フェルヴァリオは立ち上がり、白い床の上で両手を軽く広げた。

「次、また……この部屋に来ることがあれば」
ひと呼吸。

「調合台を無理矢理にでも出すことに決めた。」
苦笑しながら続ける。

「こういう話は、作業しながらの方が絶対に気が紛れるに決まってる」
言って、
目の前の空気を掴むように手を伸ばす。
白い空間が揺れ、手のひらには何も触れないはずなのに──
掴めたような感覚だけが、残った。
次の瞬間、光が一気に弾け──
フェルヴァリオの意識は現実へ急激に引き戻されていく。