
「最終質問、だと?」
最終という言葉に訝しむような視線を男は向ける。
対話相手が言い出した最終という意味は、
ただ単にこれ以上問いたい事がないという意味なのかもしれない。
しかし、男はなんとなくこの時間が終わるような気がしていた。
それに対して寂しさなどを抱いているわけではなかった。
ただ、この唐突に始まった白い部屋での対話について
なんらかのトリガーを見つけ出そうと押し黙って彼は考える。

「……いや、この仮説は黙っていても終わらないか。」

「なに、気にしないでくれ機械人形くん。
それで……ああ、自らの価値についての質問だったな?」
彼の中で決して何かがある程度まとまった頃、
伏せていた蒼い瞳をレンズへと向けた。
どうやら質問に答えることを先に選んだらしい。

「今の今まで何を聞いていたんだ君は……
まあいい、観測者が憶測でものを
決めるわけにもいかないのだろう。」
呆れたようにため息を吐いて足を組み直す。
彼からすればもう散々その価値について語ったつもりなのだろう。

「何度も言うが僕には問題を解き明かすと言う使命がある。
あらゆるものを疑い、あらゆる謎を解く事が僕の仕事だ。」

「僕は他の人間よりもこの点が非常に優れている。」
「価値を見出すとしたらまあ、そこだろう。」
トン、と彼は自身の頭を指差す。
どこか華奢な印象を受ける彼の頭の中では、
多くの問題や疑問が渦巻き、そして解決されていっているのだろう。
その能力が自分の評価すべき点であると揺らがぬ視線で彼は言った。

「僕は君とは違い仕事をある程度選びはするがね……
まあ概ねこの頭脳は全ての人間に貸しているものだ。」

「誰よりも優れているものを持っていると言うのに、
それを独り占めだなんて……
意地が悪いにも程があるだろう?」

「事件や問題の解決、改善点の提案……依頼という形で
飛び込んできたものには基本的に応じるようにしている。」
言葉選びは上から目線であり、
表情もそうあるのが当然だと言わんばかりのものである。
しかし、彼は自分より劣っているものたちを決して
下に見て踏み躙ろうとしているわけではないのだろう。
選び取る言葉が、不満そうな態度が
少し彼自身の印象を悪くしてしまっているだけだ。

「僕はこうした立場であることを好んでいる。
この役目を請け負っている事を恨んだことはない。」

「もっと簡潔に言えば僕は今の僕自身が好きなのだよ。
だから自分自身に価値を感じるし、
この生き方を他の誰よりも僕が肯定する。」

「この程度で自己愛が強い、なんて言わないだろう?
自己を肯定することは当たり前のことなのだから。」
ごく当たり前のように彼は彼自身を肯定している。
自分自身に手を引かれて進んできた道程を肯定した。

「自分を潔白だとは思わんがね。
それでも、僕は僕自身の行いを、
歩いてきた過程を肯定する。」

「多くの人物と出会い、時には彼らを助けて、
時にはひどい傷を負うことのある道だった。」

「そしてこれからもこの道の先で
多くの者と出会っていくのだろう。」
一つ前の質問で秩序や正義に傅いていないと言ったように、
なんの罪も汚れもない魂であると自身を彼は語らない。
受けた傷を思い出してかほんの少し顔を顰めるが、
それでも彼は大切な思い出を振り返るように
暖かな光を蒼い瞳に灯していた。

「そんな道を歩く自分自身を否定することは
多くの事象の否定に繋がると言っても
過言ではないのだよ。」

「これは僕が間違える筈がないから、という話ではない。
それは僕を信じた者たちに対する侮辱になるから、
という話だ。」

「僕自身を否定すること、無価値と定めることは
僕の導き出した答えを受け入れてくれた者たちに対して
ひどい裏切り行為になるのだよ。」
単純に自身の能力に自惚れているわけではないのだろう。
そして仕事に対して、問題に対して真摯に付き合っているのだろう。
間違いなく彼は責任を負っていた。
解決してきたであろう多くの事象に対して。

「だからこそ僕は堂々と宣言するのだよ。
ウィルフレッド・メイフィールドには
揺るがない価値があると。」

「それは彼の持つ頭脳のことであり、
僕の貫くスタンスのことでもあり、
或いは請け負っている役目のことでもあり、
輝かしい功績の数々のことでもある。」

「僕は僕自身を肯定し続ける。
今まで歩いてきた道筋にいる人々のために、
そしてこれから歩いていく先々にいる者たちのために。」
トン、と今度は自分自身の胸を指差した。
これは間違いなく価値があるものだと自信たっぷりに。

「……どうだね?
中々格好良い男だろう、僕は。」
どこか無邪気な子供のような顔で、彼は笑った。