Chapter03-02

記録者: Πολύτιμος λίθος ρουμπελίτης (ENo. 204)
Version: 1 | 確定日時: 2025-12-03 04:00:00

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返事が返ってくれば、おー、なんて緩い声。
女は椅子の背もたれにだらりと寄りかかり、片手で髪を弄る。
視線だけはあなたに向いているが、どこか遠くを見つめるようでもあった。

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「ねぇクロ。その話で思ったんだけどさ……
 ……変わる事って、どうしてこんなに難しいんだろうね」

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「小さい頃はさ、色々なものに手を出せて、影響を貰えて、変わっていけて、
 でも今は……うーん、なんか、平行線というか……」

手の動きが、無意識に髪を絡める。
その髪の長さが、絡めた長さほど短かった頃を思い返すように。
“過去の自分”と今の自分を結ぶ糸を手繰っているかのように。

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「努力して変わろうと思っても、どうにも体が動かないっていうか。
 変われるかもって期待して、結局同じとこにいるっていうか……。

 踏み出したと思っても、そんな事は無くて、
 思い知らされる……というか、さ」

言葉に迷うような沈黙が一つ。
下に移動していた視線をあなたに持ち上げ直して、首を傾いだ。

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「クロはどう?
 変わろうって思うのに、……よくないと分かってるのに、
 どうしても変われないことってある?」


──あなたには“変われないもの”はありますか?

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「ウチさ、“変わる気がない”わけじゃないんだよね。
 むしろ、変わりたいとは思うんだよ。
 だって、このままじゃ嫌だし。退屈だし。……置いていかれそうだし」

口では軽く言いながらも、指先は神経質にリボンをつまむ。

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「でもさ、変わるって……“今の自分を捨てる”みたいな感じしない?
 少なくとも現状って友達もいて、安全で、飢えはしなくて、凍えもしないし、傷付きもしない……。
 変わって無くなるのって……ちょっとだけ怖いんだよね。
 無くならない保証なんてされてないし、さ」

彼女は笑う。
けれどそれは苦笑とも、呆けともつかない曖昧な笑みだ。

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「“変わりたい理由”と、“変わらないままでいたい理由”、
 つり合いがとれちゃってる、のかな。だから動けないのかも。
 ウチ、そこらへんでいつも足止め食らってんの、マジだる」


言いながら、女は足を組み替える。
動きたいのに動かない身体を、座り直して誤魔化しているように。

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「クロはどう?
 変われないものってある?
 それって、なんでだと思う?」

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「私たちは、生まれ持った花を変えることはできませんからね…」

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「その花が、私たちそのもので、その花のように行動しますし、疑問を持つものではないのですが……
ああ、それでも、その花言葉にどうしても抗いたいときも、時にはあるでしょうか」

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「主様のさっきの話とか、そうだね」

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「はい。私たちは、意識してそれを行っているわけではないのです。
どうしてもその花のように『行動してしまう』ので『変わるものではない』のです」

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「…それでも、人の世界で過ごしたり、他の精霊や他の種族と出会うと、様々な作用があるでしょう?
時には、いままでしたことがなかったことを、することがあるかもしれません」

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「それは…意識的にやるものではないんだよね?」


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「ふふふ。
それは貴方の口から答えて差し上げたらどうですか?
…人間の世界で過ごすこと、人間の女の子の伴侶となる選択をすることは、『花言葉に沿った行動』だったのでしょうか?」

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「……背中を押したくせに、そういうことを言う。
…精霊だって花言葉に縛られるだけじゃない。選択に悩み迷うことも、決断できないこともあるよ。『花言葉のように行動する』ことは、いつでも一つの答えが出ているものとは限らない」

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「でもさ。
それでも、掴みたいときがある。
選びたいものがある。
僕にとっては、それは大切な人だったけれど、それは物でも時間でも、どんなものでもあると思うんだ。そっちのほうがいいと思った選択と、それへ向かう行動。その結果がいつもと違うものだったのなら、それがきっと『変わった』ってことなんじゃない?」


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「僕はさ、それで、カラ…いや、『花の精』から、人間の女の子の恋人、になった。きっと今はもう、精霊と呼べる行動は、半分くらいなんだ。
…変わったかどうかは、あとでわかることかもしれないけど。
僕の生活は、たしかに変わったよ。それはもう、かなりね」


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「変わりたいなら、後悔しない方を選ぶといいっていうけど…
大事なものを選ぶために一歩を踏み出すことで、何かいいことが起きるよ、きっとね」