Chapter02-05

記録者: Πολύτιμος λίθος ρουμπελίτης (ENo. 204)
Version: 1 | 確定日時: 2025-12-03 04:00:00

クリックで開閉
icon
「ねえ──じゃあさ」

ぱちん。
少年が指を鳴らす。
軽快なくせに、不思議と胸の奥をざらつかせる音がした。

icon
「“正しい”があるなら……“悪い”って、なんだと思う?

icon
「君の思う“悪さ”ってさ。どういう形をしてる?
 ……悪い人って、どうして悪い事をすると思う?」

その声は明るいのに、奥底に沈むものは冷たく澄んでいる。
冗談みたいな口ぶりなのに──その実、返答を逃す隙を与えないほど見つめていた。

──あなたは、何をもって“悪い”と判断しますか?


sample
icon
「僕が新しい曲を吹こうとするとね、
 止めようとする人がいるんだ。すっごく真面目な顔してさ」

笛に指を当て、吹く真似をして。
けれども笛を通して音を出す事はしないで、
また手持ち無沙汰のように笛を手でいじる。

icon
「親も、偉そうな大人も、見回りの憲兵も、
 神様の言うことばっかり唱える聖職者もね。

 彼らはそれを“正しいこと”だって僕に言うんだよ。
 でもさ、僕の新しい音を止めるんだよ? それってさ──」

そうして。歌う様な声で嗤った。

icon
〝悪い〟ってことじゃない?

      ──だって僕の方が正しいのだから!

……少年はあなたを見ている。
Answer
icon
「悪さ…ですか。
人間の基準と、私たちの基準とは、だいぶ違いますからね…」

icon
「すごくわかりやすいところで言うと。
宿る花を根絶やしにされると、困るよね」

icon
「そうですね。そのために私たちは、時間と空間を旅する力を身につけたようなものですし」


icon
「私たちは永い時を居続けられたとしても、宿る花がそのままその場所に、永く生え続けられるとは限らないのです。
品種が変わっていったり、種を増やしていったりする逞しい植物であればまだよいのですが、どんなに長寿な大木であったとしても、そこに存在するからには、いつかは消える時が来ます」

icon
「ですから、私たちは一つ処で暮らしたまま消滅しなくてもよいように、別の場所へ移るすべを身につけました。
人間のように遠い距離を渡れるように。人間と同じ姿で、ともに暮らせるように。そしてその世界ではもう生き物が過ごせなくなったとしても、似たような植物さえあれば、別の居場所を求めて旅ができるようにと」


icon
「それでも、それは永遠に出来ることではありません」


icon
「行き場を失ってしまえば、私たちは消滅してしまいます」


icon
「だから主様のように旅を重ねるものがいる。それとは別に僕のように、完全に人間の世界に入り込み、共に過ごすものがいる」

icon
「僕らが存在すること、花の在りようのままに居続けることが『正しい』存在の仕方であるならば。
それが出来なくなる…『その花が消えてしまう』ことが僕らにとっての『悪』になるんじゃないかな」

icon
「ま。
僕はそれだけじゃなく、彼女に何かあったら、そいつも『悪』認定するけどね?」

icon
「ラ…いえ、貴方は私たちの中では、やはりとても人間に近いのだと思いますよ」