Chapter01-03

記録者: Πολύτιμος λίθος ρουμπελίτης (ENo. 204)
Version: 1 | 確定日時: 2025-12-03 04:00:00

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  ──カシャ


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「記録しました。有難う御座います」

言葉と共にシャッターが下りる。
たとい先のあなたの言葉がどのようなモノであったとしても、
コレは変わらずこの言葉を吐いたのだろう。
どれだけ荒唐無稽な事を言おうと、無関係な事を言おうと、
静かで落ち着いた声は、波打つ事が無い。

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「観察対象、次の情報を取得します」

冷たいガラスのひとみが、あなたに次のトイカケを差し出した。

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「──次は簡単な思考実験を行います。
 あなたの目の前に一人の人物がいるとしましょう

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彼は明らかに困難な状況にあり、助けを求めています。
 しかし、助けるとあなた自身に損害が生じます


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──あなたはどう行動しますか?
 理由や、其れに至る思考回路を開示してください」


──あなたはこの仮定にどう回答をしますか?

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「当機には質問と観測以外の権限を持ち得ません。
 従って、この人物を助けることは不可能です」


何とも思考実験のし甲斐の無い回答ではある。
流石に此れでは回答例として参考にならないと思考したか、
継ぎ足す様に次の言葉が繰り出される。

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「この問いを考えるにあたって、あなたは複数の要素を考慮する事になるでしょう
 自らの能力、損得勘定、社会倫理、共感性、恐怖心、
 過去の経験、未来への予測、その他不確定要素……
 どの要素に重きを置き、判断するかを考えると良いでしょう」


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「思考の順序、葛藤、迷い──それらも重要な要素です。
 『まず相手の安全、次に自己の損害への憂慮・保身行為、最後に社会的評価』等の様に、
 優先順位及び時間軸での解釈の変遷は実に多様性に富むものでしょう」

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「また、其の人物が『何者であるか』も重要です。
 幼子であるのか、年長者であるのか、あるいは敵対する者か、見知らぬ存在か、親しい者か──
 立場や関係性によって、きっとあなたの判断基準は変化します。

 それらの場合でもまた、此の状況を考えてみてください」



Answer
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「あら。実に…人間らしい、質問ですね。先に答えますか?」

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「僕はあとで答えるよ。むしろ聞いてみたい」


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「そうですか。では。
…私たちは時間と空間を渡る旅人です。ですから基本的には、その世界で誰かに干渉することは、あまりよいことではないのです。
困難が起こり、助けを求めているものを、助けたとします。そうすると、私の世界への歪みが生じ、なにがしかの干渉を受けるかもしれません。
その世界のかたちが変わってしまうかもしれない。その世界で本来助かるはずの方が、代わりに困難に遭うかもしれません」

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「ですから縁もゆかりもない、どこかの世界の誰かを助けたり、干渉をしてはいけないのです。
その世界は、あるがままに。だから、その人もまた、その世界の運命に従っていただくまでです」


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「でも、何事にも『例外』はある」

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「そうですね、貴方は『例外』を選びましたから」

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「別の世界の住人であれ、その人物が『世界を伴にしたい相手であるならば』
…それは、例外が認められているわけではないけれども、干渉をすることがある」

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「神隠しにあったとか、お姫様を攫ってきたりとか、木の中に閉じ込めたりとか、たくさんの逸話は残されていますからね」

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「……人聞きの悪い。それじゃ僕も攫ってきたみたいじゃないか」

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「似たようなものではないのですか?
人間の女の子を、貴方だけのお姫様になさったのでしょう?」

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「……同意の上だからね?
…つまりだ、同じ世界に引き込もうと思う相手であれば、干渉することもある。助けることもある。僕らも時空を旅するものだ、そんなに複数の生命を囲うことはできない。せいぜい、人間でいう家族の規模くらいだし、むしろ干渉したときは、僕らがその世界から離れない選択をすることの方が多いだろうね」

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「そうですね。ですから、その世界の決まりごとを私たちも受けることになります。その世界のきまりにしたがって、行動することを余儀なくされますから、その上で助けたほうがよいと判断したら、助けることもあるでしょう」

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「だから、助けるかどうかを決める条件は、相手の年齢や性別、種族ではないね。僕の場合は、彼女か彼女の関係者でなければ、干渉しないのは変わらないと思うよ」

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「ええと…その世界に干渉するかどうかは、生活しながら少しづつ馴染んでゆくところかもしれませんね。もう少し世界と関わることが出来るように。今では、そこは貴方の世界なのですから」