儚い終わり | 記録詳細

儚い終わり

記録者: 周章 狼狽 (ENo. 23)
公開日: 2025-10-29

人は何故か、『嫌な予感』というものを覚えるもので。

別になんてことの無い日。
特に変なことがあったわけでも
目立ったことが起きたわけでも

ちょっとの『非日常』があるだけの日



……そのはずだった


「は……?」


いつものドアは

いつものOPENの文字は

いつもの風景は


「な、なんっ……
なんで……」


理解が少し、遅れてやってきて

道を間違えた?寝ぼけているのか?
僕は確かに、あの交差点を曲がってここに
じゃあ、なんで
なんで
気でも狂ったのか?
けれど周りは変わってない
今までのは幻覚?

違う、そんなはずない

じゃあなんで……
なんで……


認めたくないその事実を、理解してしまった。


あのドアが無いんだ


それを、その事を
飲み込むかのように 喉が音を立て

頭を飽和するのは、そのドアの先の思い出。
出会った人々。

うさぎの耳をつけた修道士に
お店をやってるって言う傷顔な人に
すぐ泣いちゃってしまう人に
お嬢様のような格好の人に
やけに人見知りそうな人に
ヤギみたいな人に
戦争屋だか物騒な人に
猫舌で文字の読めぬ人に
俺と似た、普通の大人の方に
人に無関心な司書さんに
魔法学院卒業の先輩に
怪しい格好をしていた手品師さんに
小さくて可愛らしい人(人?)に
無口だけど表情豊かな人に
可愛らしい黒猫ちゃんに
その猫ちゃんに懐かれてそうな人に



それに、他の席にいた
たくさんの人たちに



それから……

大魔法使いの、ルナサさんに

みんなのこと、ちゃんと覚えている。

なのに




「……こんなに、早いなんて」


いくら目を擦ろうが
     その景色はなく

荒う呼吸を
必死に抑えて



「……終わっちゃったもんは……しょうが、ないっ、か……」


なんて、強がって



……

…………

……………だけど

カフェという、『非日常』を彩ったソレは終わりを告げたのに

まだ『非日常』は続く

「……だけど」

「どうせ、いるんでしょう?
ユーストマさん非日常を象る『ソレ』は



どこかへと、非日常に向けて言った。

まだまだ、この生活は終わらないから
まだまだ、見つかりそうにないから
まだまだ、聞きたいことがあるから

この日々は終わらず、

楽しかったあの場所が無くなったのに
この青年はされど狼狽えず



──思いがけないことに出会って、非常な驚きあわてること
あわてふためくこと。うろたえること──

それらをと同じ名を冠した者。

『周章 狼狽』は今日もまた、日常へと歩を進めていく。
いつの日かの、日常へと。



また会えるって
言ってくれたから

その日をいつか、待ち望もう。


「目印なんてなくたって、来てくれるんですもんね」


贈ったネックレスの宝石は


モース硬度6.5程の宝石は


夜会のエメラルドなんて揶揄される宝石は



今も、そこで
輝きを放っているのか。