集団行動 | 記録詳細

集団行動

記録者: 道化師 (ENo. 101)
公開日: 2025-10-22

初めは見様見真似。上手くできない時は幻術を使って上手く見せていた。
要は「ズル」をしていたのだ。そうしないと日銭も稼げなかった。
人に紛れて生きていくには、人と同じような生活をせねばならない。
狩られる訳にはいかず、滅される訳にもいかないから。

そうして日々を生きていると、何の縁かサーカスの団長だという人物からスカウトされた。
当然心底困惑した。しかし逆にこれは技術を得られるチャンスだとも思い、悩みはしたが受けることにしたのだ。
どうせ全て独学だ。学べる機会があるならそれに越した事はないと。

話を受けて連れて来られた場所は居住区画だった。
曰く団員達が公演時一時的に過ごす場所らしい。
このサーカス団は一定期間で場所を移動するやり方をするのだという。
より多くの人に楽しんでもらいたいからだと嬉しそうに話していたのを覚えている。

今まで独りで生きて来たから集団生活なんて初めてで。
同室となったお喋りで陽気な人間は色んなことを聞いてきて、
色んなことを話してくれた。こちらが聞いてもいないのに。
世話焼きな人間で、若干の鬱陶しさもあったが慣れれば特にどうとも思わなくなった。
気付けば不慣れだった集団生活も悪くないと思えるくらいにはなった。
人間は嫌いだ。不信は未だある。
しかし、彼らのお陰で『折り合いをつける事ができた』。
つけざるを得なかった事もある。が、それを抜きにしても比較的周りに恵まれていたのかもしれない。

…彼らは人が良すぎた。だから、自分悪魔が居てはならない。
巻き込んではいけない。巻き込みたくない。情すら芽生えて。
団員として勤めてベテランと言えるくらいまでの年月を経た後、団を抜ける意を表した。
考え直してくれないかという言葉もあった。居られるのなら居たかったよ。
でもその想いを振り切って、必ずまた観に行くからと約束をして抜けたのだ。
実際公演の場所に行き、観た事もある。共に舞台に立てない事を何度寂しく思ったか。

でもこれで良かったんだと、今は思っている。
現代にまでまだそのサーカス団の名前は残っているのだ。
しかも、世界に名を轟かせるくらいの大きな団となって。

かつての小さな団が、今ではこんなに大きく成長しているだなんて。
初代団長が知れば感極まって泣いてしまいそうだな。