煙草を吸うようになったのは、15の夏のことだった。
きっかけはなんとなく。本当に重大な出来事があったわけでもなく、ハイスクールの先輩に勧められて、大人の階段を上るような心地でフィルターに口をつけたのを覚えている。
初めて吸った煙は、妙に喉の通りがよくて、肺が軋んだ。味は苦さ以外、よくわからなかった。
何度もせき込んで吐き出してしまったのを、先輩がけらけらと笑われて自分が子供っぽいと言われているような気になった。
だからそれを見返したくて、以来───恋をするまで、煙草をやめられなかった。
時間が経てば当たり前みたいに大人になると思っていた。
だけど、煙草を吸っても、お酒を飲んでも、自分の幼稚さが洗われることはなかった。時間も、どれだけ積み重ねても自分の大人の階段を上る事ができているのか分からなかった。
素晴らしい女性になりたかった。
母みたいにはならない。男に振り回されて少しずつ摩耗し、弱い子供のまま老いさらばえるような彼女には。
そう願っていたから、あれこれと本を読み、苦手な勉強をして、実家から離れて一人で暮らすようになった。
でも、それが一体どうして、母と自分を区別する境だなんて思ってたんだろう。
『あなたが付き合っている男性は、妻子がいます。あなたは騙されているんです』
一通の電話は、私が母と同じ愚鈍な女である現実をつきつけた。
部屋にはいつも、輪っかの縄が揺れている。