どこにでもありそうなそれなりの大きさのカフェ。
けれど、そこに他の客は一人も居ない。普段はあまり気にかけない、店員すらも。
窓の外には穏やかな夜空の色や丸い月の姿が見える。
ここには、きみとあなたしかいない。貸切の、二人だけのカフェ。
テーブルの上には、山盛りに積まれたポテト。それと様々なサンドイッチが入ったバスケット。
バスケットいっぱいのチキン。大判のピザ。シェアサイズのパスタ。
月のように大きく丸いホールチーズケーキ。
色とりどりの果物がぎっしり乗った大きなタルト。
塔のように沢山積まれた、ふわふわのパンケーキ。
全部、全部、二人だけのもの。二人だけのティーパーティー。
山盛りの軽食やデザートだって、すべて自分のもの。
まるで中世の王様の卓のように、好きなものを好きなだけ。
二人で好きなように食べ、好きなように話していれば、いずれはなくなるだろう。
それこそが、お互い幸せになる、共有の魔法。

「僕も、例のカフェに行ってきたよ」

「…………きみも?」

「あのカフェに来れたのは、本当にたまたま、あの夜にひかれただけ」

「けれど、あなたが言っていた通り、とっても賑やかでいいところだったよ」
爽やかなベルガモットの香りが辺りを包む。
お揃いのアールグレイティーのカップの上に映るのは、月。或いは、光。

「きみも気に入ってくれたなら、よかった」

「あのカフェは、本当に穏やかで、時に賑やかで。とてもいいところだよ」

「……けれど、今度は二人で、一緒にあのカフェに行きたいね」

「…………………………」

「残念だけど、それはできない。…………できないんだよ」
たった二人だけのお茶会は、カフェは、緩やかに溶けていく。
どうして、という疑問が口に出た、ような気がした。……気がしただけ。
すべて、すべて、朝の光に溶けていった。またいつも通りの朝が来る。